古事記 上巻16

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。

海幸彦と山幸彦

ホデリ命(火照命)は海幸彦うみさちひことなり、大きい魚や小さな魚を、漁をすることを生業としていました。

ホオデリ命(火遠理命)は山幸彦やまさちひことなり、毛の粗い動物や、毛の柔らかい動物を、狩りをすることを生業にしていました。

山幸彦は、兄の海幸彦に「お兄、試しにそれぞれの道具を互いに交換してみようよ。たぶん楽しいよ。」と言いました。

けれども、弟の山幸彦のお願いを、兄の海幸彦は許しませんでした。山幸彦は何度もねだり続け、根負けしたかたちで、やっとのことで交換することが出来ました。

山幸彦は、ようやく交換してもらえた兄の海幸さち(=海の道具)を使って魚を釣りをはじめました。しかし、一匹の魚も得られませんでした。また、大事な釣り針を海に無くしてしまいます。

そのころ、兄の海幸彦もいつもと勝手の違う道具や環境に上手くいかず「思ってたのと違うなぁ。つまらん。」と、ぼやき、もとに戻そうと弟の山幸彦のところへ行き「山の幸(=山の獲物)を取るには、山の道具を山幸彦が使うべきだし、海の幸(=海の獲物)を取るには、海の道具を海幸彦が使わないと上手く取れない。つまらないから交換した道具を、元に戻そう。」

すると弟の山幸彦が
「お兄の釣り針ですが…魚一匹も釣れない上に、海に無くしました。」と素直に謝りました。

しかし、兄(=海幸彦)は「ふざけるな!返せ‼」と強く責めました。

しかたがないので、山幸彦は大事な十拳剣とつかつるぎを砕いて、釣り針を500個作って、弁償したのですが「違う!あの釣り針を返せ」と怒られ、受け取ってもらえませんでした。

今度は、1000本の釣り針を作って、弁償しようとしたのですが、受け取ってもらえませんでした。

そして兄は「お前の大事な太刀をつぶしてまで、たくさんの針を作るな。オレは、元の釣り針を返して欲しいだけなんだ。」と言いました。

兄の言葉を聞いてショックを受けた山幸彦は途方に暮れ、海辺に座りこみ落ち込んでいると、シオツチ(塩椎神)が来て、声をかけてきました。
「そこに座っているのは、ソラツヒコ(虚空津日高=天つ神の意味)ではありませんか。あなたのような方が、何故しょんぼりとしているですが?」

「わたしは、兄の海幸彦と道具を交換して釣りをしました。しかし、魚は一匹も釣れず、その上に兄の大事な釣り針を無くしてしまいました。兄からは、「あの釣り針を返せ」と言われ、探したけれども見つからず。しかたがないので、私の太刀を鋳潰して沢山の釣り針を作り弁償したのですが、受け取ってもらえませんでした。兄からは『あの本の釣り針を返せ』と責められ続けて、困り果てているしだいです。」

シオツチ神は「わたしが、あなたの為に良いアイディアを授けましょう。」

そう言うと、すぐに竹で隙間無く編んだの小船を作りました。そして、その船に山幸彦を小船に乗せて、この後のことを教えました。
「わたしが今から、この船を海に押し出します。しばらく潮に流されるまま進んで行ってください。すぐに気持ちいい海流に乗ります。その海流に乗って行くと、魚の鱗のように家を並べた宮殿があります。それはワダツミ神(綿津見神)の宮殿です。その宮殿の門に着いたら、泉の近くに神聖な桂の木がありますから、その木の上に座っていれば、海神わたつみのかみの娘がきっと取り計らってくれますよ。」

山幸彦、竜宮城へ行く

山幸彦は、シオツチが教えてくれた通りに海流に乗って、おとなしく小舟で流されるままに行くと、シオツチの言葉通りの宮殿が現れました。「ここかぁ」と教えられた門に着くと、確かにきれいな泉があり、その近くには桂の木が生えているので、気に登って座って待ちました。

すると海神の娘のトヨタマヒメ(豊玉毘売)の侍女が、水を汲むために玉器を持って来てました。泉の水を汲もうとすると、泉に光が見えたので、ふと見上げると、なんとも美しい男性が木に登っているので、従者はとても不思議に思い見つめていました。

山幸彦は、その侍女を見て「水が欲しい」と声を掛けました。侍女は、玉器に水を汲み入れて差出しました。

すると山幸彦は水を飲まずに、掛けていた首飾りの紐を解き、玉を一つ口に含んでその器に吐き出し、侍女に返しました。侍女は「なんてことをする男だろう」と思い、器の中の玉を取ろうとしましたが、その玉は器にくっついてしまっていて、侍女には取れませんでした。しかたなしに、玉がついたままの器をトヨタマヒメに見せました。

トヨタマヒメは、器にくっついた玉を見て、侍女に聞きました。
「もしかして、門の外に人がいるのですか?」
「そうなんですよ。泉にある桂の木に登って座っています。とても美しい男性です。海神の宮の王よりも素敵かもしれませんよ。それで、その方が水を望んだので、水を差し上げたのですが、水を飲まずに、この玉を吐き出したのです。『なんてことを』と思って取ろうとしたのですが、この玉がくっついて取れないので、そのまま持ってきました。」

トヨタマヒメは、不思議に思い、宮から出て、泉の所へ行きました。そこには侍女が言う通りの美しい山幸彦がおり、トヨタマヒメは一目惚れしてしまいました。

すぐに父の海神に報告しに行きます。「わたしたちの門に美しい男性が居ます」

海神は宮から出て見ると「この方は、アマツヒコの皇子のソラツヒコだ」と、言って、すぐに宮殿内に招きいれました。
そして、アシカの皮を八重に重ねて敷いて、その上にさらに八重に重ねて敷いて、その上に山幸彦を座らせました。

沢山の机の上に宮殿の品物を載せ、ご馳走でもてなし、娘のトヨタマヒメと結婚させました。

それから三年もの間、山幸彦は海の国に住みました。

ここまでの原文

火照命ほでりのみこと海佐知毘古うみさちびこて、はた広物ひろものはた狭物さものりたまひ、火遠理命ほをりのみこと山佐知毘古やまさちびこて、麁物あらもの柔物にごものりたまひき。

ここ火遠理命ほをりのみこといろせ火照命ほでりのみことに、かたみ佐知さち相易へてもちひてむ。とひて、三度みたびはししかども、ゆるさざりき。しかれどもついわづかかに相易へたまひき。

火遠理命ほをりのみこと海左知うみさちもちらすに、かつ一魚ひとつたまはず。またつりばりをさへうみうしなひたまひき。

ここいろせ火照命ほでりのみことつりばりひて、山佐知やまさちおの佐知佐知さちさち海佐知うみさちおの佐知佐知さちさちいま各佐知おのもおのもさちかえさむ。とひしときに、いろと火遠理命ほをりのみこと答曰りたまはく、みましつりばりは、りしに、一魚ひとつずて、ついうみうしなひてき。とのりたまへども、いろせあながちにはたりき。いろと御佩みはかし十拳剣とつかつるぎやぶりて、五百鉤いほはりつくりてつぐのひたまへどもらず。また一千鉤ちはりつくりてつぐのひたまへども、けずて、なほ正体もとはりむ。とぞひける。

ここいろと海辺うみべたうれひてますときに、塩椎神しおつちのかみ来てひけらく、いかにぞ虚空津日高そらつひこうれひたまふ所由ゆえは。ととへば、答言こたへたまはく、我兄あれいろせつりばりへて、つりばりうしなひてき。かくつりばりゆえに、あまたつりばりつぐのひしかどもけずて、『なほもとつりばりむ。』とふなり。うれふぞ。とのりたまひき。

ここ塩椎神しおつちのかみあれみことみため議作ことばかりせむ。とひて、すなわ無間勝間之小船まなしかつまのおぶねつくりて、ふねせまつりて、おしへけらく、あれふねながさば、差暫ややしまでませ。味御路うましみちらむ。すなわみちりてましなば、魚鱗いろこごとつくれる宮室みや綿津見神わたつみのかみみやなり。かみ御門みかどいたりましなば、かたへなる湯津香木ゆつかつららむ。うへしまさば、海神わたのかみみむすめ相議はからむものぞ。とをしへまつりき。

おしへまにますこでましけるに、つぶさにことごとくなりしかば、すなわ香木かつらのぼりてしましき。ここ海神わたのかみみむすめ豊玉毘売とよたまびめ従婢まかたち玉器たまもちちてみずまむとするときに、かげあり。あおぎてれば、うるはしき壮夫おとこり。甚異奇いとあやし以為おもひき。

火遠理命ほをりのみことまかたちたまひて、みずしめよひたまふ。まかたちすなわみずみて、玉器たまもちれて貢進たてまつりき。ここみずをばみたまはずして、御頸みくびたまかしてくちふくみて、玉器たまもちつばれたまひき。ここたまい、もいきて、まかたちたま得離えはなたず。璵著たまつけながら豊玉毘売命とよたまびめのみことたてまつりき。

ここたまて、まかたちに、かど人有ひとありや。とひたまへば、香木かつらうへす。うるはしき壮夫おとこにます。きみにもまさりて甚貴いととうとし。ひとみずはせるゆえたてまつりしかば、みずまさずて、たまをなもつばれたまへる。得離えはなたぬゆえに、れながらち来てたてまつりぬ。と答曰まをしき。

ここ豊玉毘売命とよたまびめのみことあやしとおもほして、て、すなわ見感みめでて、目合まぐはひして、ちちに、かどうるはしき人有ひといます。とまをしたまひき。

ここ海神わたのかみみづかて、ひと天津日高あまつひこ御子みこ虚空津日高そらつひこにませり。とひて、すなわうちれまつりて、美智みちかわ畳八重たたみやへき、また絁畳八重きぬたたみやへうへきて、うへせまつりて、百取ももとり机代物つくえしろのものそなへて、御饗為みあへして、すなわみむすめ豊玉毘売命とよたまびめのみことあはせまつりき。三年みとせといふまでくにみたまひき。

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