古事記 上巻5

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。

スサノオ、黄泉の国へ行くことが許される

イザナギが命じたように、アマテラスとツクヨミは、それぞれの領域を治めていたのですが、スサノオだけは命じられたようには治めず、アゴヒゲが胸に届くほど成長しても泣き喚いているばかりでした。

その泣き方があまりにも激しすぎて、青々とした山が枯れ、河や海の水が干上がってしまうほどです。

こうなると悪い神が横行して、その音は夏のハエのように辺りに満ち、きたない精霊が沸きました。

さすがにイザナギがスサノオに尋ねました。
「なぜ、お前は海を治めない。どうして毎日泣いているのだ?」

するとスサノオは
「亡き母の居る『根の国』へ行きたいのです」
と答えました。

この返答にはイザナギも我慢しきれず、
「ならば、出て行け」
と言い、すぐにスサノオを追放してしまった。

(この時、イザナギは近江の多賀にいました)

スサノオは「では、姉のアマテラスに訳を話してから母の国へ行くことにしよう」と言って、高天原に昇って行きました。

スサノオ、姉に弁明する

スサノオが晴れた心持で高天原に昇り出すと、山や川が震えました。

その音を聞いたアマテラスは驚き

「あの弟がここに来る理由は、良からぬことを考えているからだ。きっと、この高天原を奪おうと思っているに違いない!」
と言い、髪を解いて動きやすいように束ねて男性のような髪型にして、髪と左右の手に勾玉を沢山連ねた玉緒を巻き付けました。

また背には1000本くらい矢が入った大きな矢筒を背負い、脇には500本くらい矢が入る矢筒を抱え、肘には籠手をしかっりと着け、弓を振り上げて、両足が地面にめり込むほどに踏み込み、雄々しく

「何をしに来た!」

とスサノオを問い詰めました。

これにはスサノオも驚き「私には下心なんてありません。父に海原を治めることを命じられていましたが、ご存じのように私が毎日泣いていると、私のところに父が尋ねてきたのです。そこで私は『母のいる根の国へ行きたい』と言いました。すると父は怒って『この国から出て行け』と、私は追放されてしまいました。お姉さまとは、これでお別れになります。せめて母の所へ向かう前に、最後のあいさつと事情を話に来たのであって、謀反の心などありません」と言いました。

アマテラスとスサノオ、天の安河で誓約をする

スサノオの話を信じられないアマテラスは「ならば、あなたの心が清く正しいことはどうやって証明するのですか?」

するとスサノオが「私と誓約うけいをしよう!」と言いました。

天安河(アメノヤスカワ)を間に挟んで二柱は誓約をしました。

先にアマテラスがスサノオが持っている剣を受け取って、三つに折り、神聖な井戸の水でお清めしてから噛み砕き、吹き捨てました。

その息吹から生まれた神の名は
まずタキリヒメの命(多紀理毘売命)。別名はオキツシマヒメの命(奥津嶋比売命)です。
次がイチキシマヒメの命(市寸嶋比売命)。別名はサヨリビメの命(狭依毘売命)。
次がタキツヒメノミコト(多岐都比売命)です。

今度は、スサノオがアマテラスの左の髪につけていた、勾玉がたくさん施されている髪飾りを受け取りました。

そして、玉が揺れて音が立つほど、同じ神聖な井戸の水ですすいでから、噛み砕き、吐き出しました。

その息の霧から生まれたのが
マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミの命(正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命)です。

次に右の髪飾りを同様に噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれたのがアメノホヒの命(天之菩卑能命)です。

次に髪に巻いていた髪飾りを受け取って、噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれたのがアマツヒコネの命(天津日子根命)です。

また左の手に巻いている腕飾りを噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれのがイクツヒコネの命(活津日子根命)です。

また右の手に巻いている腕飾りを噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれのがクマノクスビの命(熊野久須毘命)です。

合わせて五柱です。

お互いに生み終えて、アマテラスが言いました。
「後から生まれた五柱の男神は、わたしの持ち物から生まれたのでわたしの御子です。 先に産まれた三柱の女神はあなたの持ち物から生まれたので、あなたの御子です」

御子たちの紹介

タキリヒメの命(多紀理毘売命)は、宗像神社の沖津宮にお鎮まりになっております。

イチキシマヒメの命 (市寸嶋比売命)は宗像神社の中津宮にお鎮まりになっております。

タキツヒメの命(田岐都比売命)は宗像神社の辺津宮にお鎮まりになっております。

これらの三柱の女神は胸形君むなかたのきみがお仕えしています。

次に、アメノホヒの命(天菩比命)の子のタケヒラトリの命(建比良鳥命)は 、出雲国造・武蔵国造・上海上かみつうながみ国造(現在の千葉県市原市付近)・下海上しもつうながみ国造(千葉県北部)、伊甚いじむ国造(千葉県中部)、対馬県値あがたのあたい、遠江国造(静岡県大井川の西あたり)等の祖神です。

次にアマツヒコネの命(天津日子根命)は、凡河内おおしこうち国造(大阪府南・中・北河内郡あたり)、額田部ぬかたべ湯坐連(奈良県平群郡か大阪府河内郡)、茨木国造(イバラキ)、大和田中あたい(?)、山城国造(京都府南部)、馬来田まくた国造(千葉県君津郡)、道尻岐閇みちのしりのきえ国造(?)、周芳国造(山口県南部)、大和淹知やまとのあむち造(奈良県磯城郡)、高市たけち県主(奈良県高市郡)、蒲生稲寸いなき(滋賀県蒲生郡)の祖神です。

ここまでの原文

おのもおのもさしたまえるみことまにま知看しろしめなかに、速須佐之男命はやすさのおのみことさせしたまえるくにしらさずて、八拳須やつかひげ心前むなさきいたるまできいさちき。きたまうさまは、青山あおやま枯山かれやまらし、河海うみかわことごとしき。ここ悪神あらぶるかみおとない狭蝿如さばえな皆涌みなわき、よろずものわざわいことごとおこりき。伊邪那岐いざなぎ大御神おおみかみ速須佐之男命はやすさのおのみことりたまいわく、なにとかもみまし事依ことよさせるくにらずて、きいさちる、とのりたまえば、すなわ答白まおしたまわく、ははくに根之堅州国ねのかたすくにまからむとおもうがゆえく、とまおしたまいき。ここ伊邪那岐いざなぎ大御神おおみかみいた忿怒いからして、しからばみましくににはなみそ、とりたまいて、すなわかむやらいにやらいたまいき。伊邪那岐いざなぎ大御神おおみかみは、淡海おうみ多賀たがになもします。

ここ速須佐之男命はやすさのおのみこともうしたまわく、しからば天照大御神あまてらすおおみかみもおしてまかりなむ、ともおしたまいて、すなわあめ参上まいのぼりますときに、山川やまかわことごととよみ、国土くにつちみなりき。ここ天照大御神あまてらすおおみかみおどろかして、那勢命なせのみことのぼますゆえは、かならうるわしきこころならじ。くにうばはむとおもほすにこそ、とりたまいて、すなわ御髪みかみき、御美豆羅みみづらかして、すなわ左右ひだりみぎり御美豆羅みみづらにも、御鬘みかづらにも、左右ひだりみぎり御手みてにも、みな八尺勾瓊やさかのまがたま五百津いほつ美須麻流之珠みすまるのたまたして、曽毘良そびらには千入ちのりゆきい、五百入いほのりゆきけ、たまただむき臂には伊都之竹鞆いつのたかともばして、弓腹ゆみはらてて、堅庭kたにわ向股むかももみなづみ、沫雪あわゆきはららかして、伊都之男建いつのおたけびたけびて、いたまわく、何故などのぼつる、といたまいき。

ここ速須佐之男命はやすさのおのみこと答白まおしたまわく、きたな心無こころなし、ただ大御神おおみかみ命以みこともて、きいさちることいたまいしゆえに、もおしつらく、ははくにまからむとおもいてくとまをししかば、大御神おおみかみみましくににはなみそとりたまいて、かむやらいやらいたまゆえに、罷往まかりなむとするさまもおさむと以為おもいてこそまいのぼりつれ、しき心無こころなし、とまおしたまえば、

すなわ天照大御神あまてらすおおみかみしからばみましこころ清明あかきことは如何いかにしてらまし、とりたまひき。ここ速須佐之男命はやすさのおのみことおのもおのもうけいてみこまな、と答白もおしたまいき。
ここおのもおのも天安河あめのやすかわなかきてうけうときに、天照大御神あまてらすおおみかみたけ速須佐之男命はやすさのおのみことみはかせる十拳剣とつかつるぎわたして、三段みきだりて、ぬなとももゆらに天之真名井あめのまないすすぎて、さがみにかみて、つる気吹いぶき狭霧さぎりりませるかみ御名みなは、多紀理毘売命たぎりひめのみことまた御名みな奥津嶋比売命おきつしまひめのみこともうす。つぎ市寸嶋比売命いちきしまひめのみことまた御名みな狭依毘売命さよりびめのみこともうす。つぎ多岐都比売命たぎつひめのみこと。【三柱みはしら

速須佐之男命はやすさのおのみこと天照大御神あまてらすおおみかみひだり御美豆良みみづらかせる八尺之やさかの勾瓊之まがたまの五百津之いほつの美須麻流之珠みすまるのたまわたして、ぬなとももゆらに、天之真名井あめのまないすすぎて、さがみにかみて、つる気吹いぶき狭霧さぎりりませるかみ御名みなは、正勝まさかつ吾勝あかつ勝速日かちはやひ天之あめの忍穂耳命おしほみみのみことまたみぎり御美豆良みみづらかせる珠をわたして、さがみにかみて、つる気吹いぶき狭霧さぎりりませるかみ御名みなは、天之菩卑能命あめのほひのみことまた御鬘みかづらかせる珠をわたして、さがみにかみて、つる気吹いぶき狭霧さぎりりませるかみ御名みなは、天津日子根命あまつひこねのみことまたひだり御手みてかせる珠をわたして、さがみにかみて、つる気吹いぶき狭霧さぎりりませるかみ御名みなは、活津日子根命いくつひこねのみことまたみぎり御手みてかせる珠をわたして、さがみにかみて、つる気吹いぶき狭霧さぎりりませるかみ御名みなは、熊野久須毘命くまぬくすぎのみこと。【あわせて五柱いつはしら

ここ天照大御神あまてらすおおみかみ速須佐之男命はやすさのおのみことりたまわく、のちれませる五柱いつはしら男子ひこみこは、物実ものざねものりてりませり。おのづかみこなり。さきれませる三柱みはしら女子ひめみこは、物実ものざねいましものりてりませり。すなわみましみこなり。けたまいき。

さきれませるかみ多紀理毘売命たきりびめのみこと胸形むなかた奥津宮おきつみやす。つぎ市寸嶋比売命いちきしまひめのみこと胸形むなかた中津宮なかつみやす。つぎ田寸都比売命たぎつひめのみこと胸形むなかた辺津宮へつみやす。三柱みはしらかみ胸形むなかた君等のきみらもちいつく三前みまえ大神おおかみなり。のちれませる五柱いつはしらみこなかに、天菩比命あめのほひのみことみこ建比良鳥命たけひらとりのみこと出雲国造いづものくにのみやつこ无邪志国造むさしのくみのみやつこ上菟上かみつうなかみの国造くみのみやつこ下菟上しもつうまかみの国造くみのみやつこ伊自牟いじむ国造くみのみやつこ津島つしまのあがたあたい遠江とおつおうみ国造くみのみやつこおやなり。つぎ天津日子根命あまつひこねのみことは、凡川内おうしかうち国造くみのみやつこ額田部ぬかたべの湯坐連ゆえのむらじ茨木うばらきの国造くみのみやつこ倭田中やまとのたなかあたい山代やましろ国造くみのみやつこ馬来田まくた国造くみのみやつこ道尻岐閇みちのしりのきへの国造くみのみやつこ周芳すおう国造くみのみやつこ倭淹知やまとのあむちのみやつこ高市たけち県主のあがたぬし蒲生がもうの稲寸いなき三枝部造さきくさべのみやつこおやなり。

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