- 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
- 旧字体・古語は現代語になおします。
- 神様は「柱」という数え方にします。
スサノオ、黄泉の国へ行くことが許される
イザナギが命じたように、アマテラスとツクヨミは、それぞれの領域を治めていたのですが、スサノオだけは命じられたようには治めず、アゴヒゲが胸に届くほど成長しても泣き喚いているばかりでした。
その泣き方があまりにも激しすぎて、青々とした山が枯れ、河や海の水が干上がってしまうほどです。
こうなると悪い神が横行して、その音は夏のハエのように辺りに満ち、きたない精霊が沸きました。
さすがにイザナギがスサノオに尋ねました。
「なぜ、お前は海を治めない。どうして毎日泣いているのだ?」
するとスサノオは
「亡き母の居る『根の国』へ行きたいのです」
と答えました。
この返答にはイザナギも我慢しきれず、
「ならば、出て行け」
と言い、すぐにスサノオを追放してしまった。
(この時、イザナギは近江の多賀にいました)
スサノオは「では、姉のアマテラスに訳を話してから母の国へ行くことにしよう」と言って、高天原に昇って行きました。
スサノオ、姉に弁明する
スサノオが晴れた心持で高天原に昇り出すと、山や川が震えました。
その音を聞いたアマテラスは驚き
「あの弟がここに来る理由は、良からぬことを考えているからだ。きっと、この高天原を奪おうと思っているに違いない!」
と言い、髪を解いて動きやすいように束ねて男性のような髪型にして、髪と左右の手に勾玉を沢山連ねた玉緒を巻き付けました。
また背には1000本くらい矢が入った大きな矢筒を背負い、脇には500本くらい矢が入る矢筒を抱え、肘には籠手をしかっりと着け、弓を振り上げて、両足が地面にめり込むほどに踏み込み、雄々しく
「何をしに来た!」
とスサノオを問い詰めました。
これにはスサノオも驚き「私には下心なんてありません。父に海原を治めることを命じられていましたが、ご存じのように私が毎日泣いていると、私のところに父が尋ねてきたのです。そこで私は『母のいる根の国へ行きたい』と言いました。すると父は怒って『この国から出て行け』と、私は追放されてしまいました。お姉さまとは、これでお別れになります。せめて母の所へ向かう前に、最後のあいさつと事情を話に来たのであって、謀反の心などありません」と言いました。
アマテラスとスサノオ、天の安河で誓約をする
スサノオの話を信じられないアマテラスは「ならば、あなたの心が清く正しいことはどうやって証明するのですか?」
するとスサノオが「私と誓約をしよう!」と言いました。
天安河(アメノヤスカワ)を間に挟んで二柱は誓約をしました。
先にアマテラスがスサノオが持っている剣を受け取って、三つに折り、神聖な井戸の水でお清めしてから噛み砕き、吹き捨てました。
その息吹から生まれた神の名は
まずタキリヒメの命(多紀理毘売命)。別名はオキツシマヒメの命(奥津嶋比売命)です。
次がイチキシマヒメの命(市寸嶋比売命)。別名はサヨリビメの命(狭依毘売命)。
次がタキツヒメノミコト(多岐都比売命)です。
今度は、スサノオがアマテラスの左の髪につけていた、勾玉がたくさん施されている髪飾りを受け取りました。
そして、玉が揺れて音が立つほど、同じ神聖な井戸の水ですすいでから、噛み砕き、吐き出しました。
その息の霧から生まれたのが
マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミの命(正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命)です。
次に右の髪飾りを同様に噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれたのがアメノホヒの命(天之菩卑能命)です。
次に髪に巻いていた髪飾りを受け取って、噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれたのがアマツヒコネの命(天津日子根命)です。
また左の手に巻いている腕飾りを噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれのがイクツヒコネの命(活津日子根命)です。
また右の手に巻いている腕飾りを噛み砕いて吐き出した息の霧から生まれのがクマノクスビの命(熊野久須毘命)です。
合わせて五柱です。
お互いに生み終えて、アマテラスが言いました。
「後から生まれた五柱の男神は、わたしの持ち物から生まれたのでわたしの御子です。 先に産まれた三柱の女神はあなたの持ち物から生まれたので、あなたの御子です」
御子たちの紹介
タキリヒメの命(多紀理毘売命)は、宗像神社の沖津宮にお鎮まりになっております。
イチキシマヒメの命 (市寸嶋比売命)は宗像神社の中津宮にお鎮まりになっております。
タキツヒメの命(田岐都比売命)は宗像神社の辺津宮にお鎮まりになっております。
これらの三柱の女神は胸形君がお仕えしています。
次に、アメノホヒの命(天菩比命)の子のタケヒラトリの命(建比良鳥命)は 、出雲国造・武蔵国造・上海上国造(現在の千葉県市原市付近)・下海上国造(千葉県北部)、伊甚国造(千葉県中部)、対馬県値、遠江国造(静岡県大井川の西あたり)等の祖神です。
次にアマツヒコネの命(天津日子根命)は、凡河内国造(大阪府南・中・北河内郡あたり)、額田部湯坐連(奈良県平群郡か大阪府河内郡)、茨木国造(イバラキ)、大和田中値(?)、山城国造(京都府南部)、馬来田国造(千葉県君津郡)、道尻岐閇国造(?)、周芳国造(山口県南部)、大和淹知造(奈良県磯城郡)、高市県主(奈良県高市郡)、蒲生稲寸(滋賀県蒲生郡)の祖神です。
ここまでの原文
故れ各依さし賜える命の随に知看す中に、速須佐之男命、命させしたまえる国を知さずて、八拳須心前に至るまで啼きいさちき。其の泣きたまう状は、青山を枯山如す泣き枯らし、河海は悉に泣き乾しき。是を以て悪神の音、狭蝿如す皆涌き、万の物の妖悉に発りき。故れ伊邪那岐大御神、速須佐之男命に詔りたまいわく、何とかも汝は事依させる国を治らずて、哭きいさちる、とのりたまえば、爾ち答白したまわく、僕は妣の国、根之堅州国に罷らむと欲うが故に哭く、とまおしたまいき。爾に伊邪那岐大御神大く忿怒らして、然らば汝は此の国にはな住みそ、と詔りたまいて、乃ち神やらいにやらい賜いき。故れ其の伊邪那岐大御神は、淡海の多賀になも坐します。
故れ是に速須佐之男命の言したまわく、然らば天照大御神に請して罷りなむ、ともおしたまいて、乃ち天に参上ります時に、山川悉に動み、国土皆震りき。爾に天照大御神聞き驚かして、我が那勢命の上り来ます由は、必ず善しき心ならじ。我が国を奪はむと欲すにこそ、と詔りたまいて、即ち御髪を解き、御美豆羅に纏かして、乃ち左右の御美豆羅にも、御鬘にも、左右の御手にも、各八尺勾瓊之五百津之美須麻流之珠を纏き持たして、曽毘良には千入之靫を負い、五百入之靫を附け、亦臂には伊都之竹鞆を佩ばして、弓腹振り立てて、堅庭は向股に蹈みなづみ、沫雪如す蹶え散かして、伊都之男建蹈み建びて、待ち問いたまわく、何故上り来つる、といたまいき。
爾に速須佐之男命の答白したまわく、僕は邪き心無し、唯大御神の命以て、僕が哭きいさちる事を問いたまいし故に、白しつらく、僕は妣の国に往らむと欲いて哭くとまをししかば、大御神、汝は此の国にはな住みそと詔りたまいて、神やらいやらい賜う故に、罷往りなむとする状を請さむと以為いてこそ参上りつれ、異しき心無し、とまおしたまえば、
爾ち天照大御神、然らば汝の心の清明きことは如何にして知らまし、と詔りたまひき。是に速須佐之男命、各うけいて子生まな、と答白したまいき。
故れ爾に各天安河を中に置きてうけう時に、天照大御神、先づ建速須佐之男命の佩かせる十拳剣を乞ひ度して、三段に打ち折りて、ぬなとももゆらに天之真名井に振り滌ぎて、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、多紀理毘売命。亦の御名は奥津嶋比売命と謂す。次に市寸嶋比売命。亦の御名は狭依毘売命と謂す。次に多岐都比売命。【三柱】
速須佐之男命、天照大御神の左の御美豆良に纏かせる八尺之勾瓊之五百津之美須麻流之珠を乞ひ度して、ぬなとももゆらに、天之真名井に振り滌ぎて、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命。亦右の御美豆良に纏かせる珠を乞ひ度して、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、天之菩卑能命。亦御鬘に纏かせる珠を乞ひ度して、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、天津日子根命。亦左の御手に纏かせる珠を乞ひ度して、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、活津日子根命。亦右の御手に纏かせる珠を乞ひ度して、さがみにかみて、吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は、熊野久須毘命。【并せて五柱】
是に天照大御神、速須佐之男命に告りたまわく、是の後に生れませる五柱の男子は、物実我が物に因りて成りませり。故れ自ら吾が子なり。先に生れませる三柱の女子は、物実汝が物に因りて成りませり。故れ乃ち汝の子なり。此く詔り別けたまいき。
故れ其の先に生れませる神、多紀理毘売命は胸形の奥津宮に坐す。次に市寸嶋比売命は胸形の中津宮に坐す。次に田寸都比売命は胸形の辺津宮に坐す。此の三柱の神は胸形君等が以いつく三前の大神なり。故れ此の後に生れませる五柱の子の中に、天菩比命の子建比良鳥命。此は出雲国造、无邪志国造、上菟上国造、下菟上国造、伊自牟国造、津島県直、遠江国造等の祖なり。次に天津日子根命は、凡川内国造、額田部湯坐連、茨木国造、倭田中直、山代国造、馬来田国造、道尻岐閇国造、周芳国造、倭淹知造、高市県主、蒲生稲寸、三枝部造等が祖なり。
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