古事記 上巻8

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。
  • 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。

ダイコク様(大国主大神)には、八十神と言われているほど大勢の兄弟神がいました。

しかし、兄弟神はダイコク様に国を譲ってしまいました。その理由というのが……

因幡の白兎

八十神の兄弟神は、因幡のヤガミヒメ(八上比売)というキレイなお姫様にプロポーズして、結婚しようと思い、因幡へ旅をしていました。

この時は、ダイコク様は従者としてお供していました。大きな袋を背負って一番後ろを歩いていました。

気多けた(地名)の御崎を通る時に、皮を剥がれた赤裸のウサギが倒れていました。

先頭を行っていた八十神がそのウサギに言いました。

「ひどいケガだな。その傷を治すには、海水を浴びて、風に当たり、高い山の頂上に寝ていなさい。」

ウサギは八十神が言うとおりにして、ビリビリしみるのを我慢して海水を浴びて、風通しの良い山の上に寝ました。

さんさんと照り付ける日光と風に吹かれて、浴びた海水が乾いていきました。海水が乾くほど塩で傷口がひび割れ、ウサギは血まみれになってしまいました。

回復するどこか、ますます痛みが増し、ウサギは痛み苦しんで泣いていました。

すると、そこへ最後尾を歩いていた、大きな袋を背負って、汗と埃まみれのダイコク様がやってきました。

「どうして、お前は泣いているんだ?ウサギよ。」

「わたしは、もとは沖ノ島にいました。しかし、この国に渡ろうと思いましたが、渡る方法がありませんでした。

そこで海のサメを騙して『わたしとあなたと、どっちの同族が多いか比べてみないか。ここに仲間を集めて、沖ノ島から気多の御崎まで並んでください。その上を、私が飛んで走りながら数えましょう。
こうすれば、私たちとあなた達のどちらが多いかハッキリするでしょう。』と言いました。

そう言うと、騙されたサメが列になって伏せて、わたしはその上を踏んで数えながら渡りました。

そうして、渡り切るところで私は言ったのです。
『お前はわたしに騙されたのだよ!』
そう言い終わるや否や……

列の一番端っこのサメが、わたしを捉えて、衣服を身包み剥いでしまったのです。

それで泣いていると、八十神の兄弟神達が来て
『海水を浴びて、風に当たって伏せていろ!』と教えてくれましたので、その教えのとおりにしていると、全身傷だらけになりました」
と(ウサギは)言いました。

ダイコク様は、ウサギの話を聞いて、あきれつつもそのウサギに傷の治し方を教えてやりました。

「あきれたウサギだ。しかし、ちゃんと罰を受けたのだから、傷の治し方を教えてあげよう。

今すぐに河口に行き、海水と淡水が混じった水で身体を洗いなさい。河口から上がる時に、そこらに生えている蒲黄がまの種を取ってきて、そのフワフワの種を敷いて寝転がれば、元の肌に必ず治るだろう。」
と言いました。

教えどおりにすると、ウサギの身体は元通りになった。
これが因幡の白菟です。

今もこのウサギのことを「兎神うさぎがみ」といいます。

この兎神は、御礼にダイコク様に預言をしました。

「あのキレイなヤガミヒメは、袋を負っていても、あなたと結婚することになるでしょう」と。

この予言の通りに、ヤガミヒメは八十神たちの申し出を断り、

「わたしは、あなた方とは付合えません。あのダイコク様と結婚します。」

と宣言しました。

伯耆の赤猪


ヤガミヒメがダイコク様の許に嫁いだことに八十神の兄弟は嫉妬し、殺してしまおうと相談しました。

そこで、「伯耆国の手間山の麓に狩りに出るからついて来い」と連れ出しました。

「この山には赤い猪が居る。我々が山頂から追って、下へと降ろす。猪が降りてきたら、お前は待ち伏せして捕らえろ。もし待ち伏せして捕まえそこなったら必ずお前を殺す!」

そう言うと、鼻息荒くして八十神たちは山へと入っていきました。しかし、山中で八十神たちがしていたのは、イノシシに似た大きな石に火で焼くことでした。

真っ赤に焼けた大石を転ばして、下で待ち構えているダイコク様に向かって転がし落としました。

八十神たちの思惑通りに、ダイコク様は落ちてきた焼けた石に巻き込まれて死んでしまいました。

このニュースを知った母は泣き悲しんで、急いで高天原に上り、カミムスビ命(神産巣日之命)に「救ってください」と涙ながらに訴えました。

すると、カミムスビ命はキサガイヒメとウムガイヒメを派遣して、ダイコク様の治療・蘇生させました。

その治療方法は、キサガイヒメは赤貝の殻を削り、粉を集め、ウムガイヒメはハマグリの汁で溶いた、乳汁を塗ったところ、ダイコク様は立派な男子となって元気になりました。

二度目の殺害

蘇生したダイコク様を見た兄弟神は、さらに怒りを燃やしました。

適当な理由をつけて、山に連れ込み、大木を切り倒してクサビを打って開いたところに、ダイコク様を誘い入らせました。

裂け目に入った途端、八十神がクサビを引き抜き、ダイコク様は木に挟まって死んでしまった。

八十神に連れられて山に行ったこと知った母が泣きながら探し求めると、瀕死のダイコク様を見つけることが出来ました。

挟まれている木を折って、取り出し、助け出して蘇生させました。

蘇生した所で言いました。

「お前はここに居たら八十神に滅ぼされてしまう。はやく逃げなさい!」

そうして母は、紀国のオオヤビコ神(大屋毘古神)のもとに送りました。

ところが、八十神が探して追ってオオヤビコのもとへやってきました。

弓に矢を添えて構え
「ダイコクを引き渡せ」と求めました。

そこでオオヤビコ神は、ダイコク様を木の股から逃がし
「スサノオ命のいる根の堅州国に行きなさい。きっとその神がよい考えを持っているから」
と教えました。

ここまでの原文

大国主神おおくにぬしのかみ兄弟みあにおと八十神やそがみしき。しかれども皆国みなくに大国主神おおくにぬしのかみりまつりき。りまつりし所以ゆえは、八十神やそがみおのもおのも稲羽いなば八上比売やかみひめよばはむのこころりて、とも稲羽いなばきけるときに、大穴牟遅神おおなむぢのかみふくろおおせ、従者ともびときき。

ここ気多之前けたのさきいたりけるときに、あかはだうさぎせり。ここ八十神やそがみうさぎひけらく、いましむは、海塩うしおみ、かぜくにあたりて、高山たかやま尾上おのへしてよとふ。うさぎ八十神やそがみおしふるままにしてしき。

ここしおかわまにまに、かわことごとかぜかえしからに、痛苦いたみてせれば、最後いやはてませる大穴牟遅神おおなむぢのかみうさぎて、何由なぞいましせるとひたまふに、うさぎ答言まおさく、

あれ淤岐島おきのしまりて、くにわたらまくりつれども、わたらむ因無よしなかりしゆえに、うみ和邇わにあざむきてひけらく、あれいましともがらおおすくなきをくらべてむ。

いましは、ともがらりのまにまに、ことごとて、しまより気多前けたのさきまで皆列みななわたれ、すなわあれうえみて、はしりつつわたらむ。ここともがらいづれかおおきといふことをらむ。如此かくひしかば、

あざむかえてせりしときに、あれうえみてわたて、いまくにりむとするときに、あれいましあれあざむかえつとおはれば、

すなわ最端いやはしせる和邇わにあれとらへて、ことごとあれ衣服きものぎき。ここりてうれひしかば、さきだちてでませる八十神やそがみ命以みこともちて、海塩うしおみて、かぜあたりてせれと誨告おしへたまひき。おしえ如為ごとせしかば、ことごとそこなはえつとまをす。

ここ大穴牟遅神おおなむぢのかみうさぎ教告おしへたまはく、いま水門みなときて、水以みずもいましあらひて、すなわ水門みなと蒲黄かまのはなりて、らして、うえ輾転こいまろびてば、いましもとはだごとかならえなむものぞ、とおしへたまひき。おしえ如為ごとせしかば、もとごとくになりき。稲羽之素菟いなばのしろうさぎといふものなり。

いま菟神うさぎがみとなもふ。うさぎ大穴牟遅神おおなむぢのかみもおさく、八十神やそがみかなら八上比売やかみひめたまはじ。ふくろおおひたまへれども、いましみことたまはむとまをしき。

ここ八上比売やかみひめ八十神やそがみこたへけらく、いまし等のことかじ。大穴牟遅神おおなむぢのかみはなとふ。

ここ八十神やそがみいかりて、大穴牟遅神おおなむぢのかみころさむと共議あいたばかりて、伯伎国ははきのくに手間てま山本やまもといたりてひけるは、やま赤猪あかいるなり。れわれどもくだりなば、いましれ。らずば、かならいましころさむとひて、たる大石おおいしきて、まろばしおとしき。くだときに、いしかえてみうせたまひき。

ここ御祖命みおやのみことうれひて、あめ参上まいのぼりて、神産巣日之命かむむすびのみこともおしたまふときに、すなわちキサ貝比売かいひめ蛤貝比売うむがいひめとをおこせて、つくいかさしめたまふ。れキサ貝比売かいひめきさげあつめて、蛤貝比売うむがいひめみずけて、おも乳汁ちしるりしかば、うるわしき壮夫おとこりて遊行あるきき。

ここ八十神やそがみて、且欺またあざむきて、やまりて、大樹おおきせ、茹矢ひめやて、の中にらしめて、すなわ氷目矢ひめやはなちてころしき。

ここまた御祖命みおやのみこときつつげば、見得みえて、すなわきて、り出でいかして、みこりたまはく、いまし此間ここらば、つい八十神やそがみほろぼさえなむ、とりたまひて、すなわ木国きのくに大屋毘古神おおやびこのかみ御所みもといそがしりたまひき。

ここ八十神やそがみいたりて、矢刺やさときに、またよりのがれてりたまいひき。御祖命みおやのみことみこりたまはく、須佐之男命すさのおのみことします根堅州国ねのかたすくに参向まいでてよ。かなら大神おおかみたばかりたまひなむとのりたまひふ。

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