- 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
- 旧字体・古語は現代語になおします。
- 神様は「柱」という数え方にします。
- 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。
ダイコク様(大国主大神)には、八十神と言われているほど大勢の兄弟神がいました。
しかし、兄弟神はダイコク様に国を譲ってしまいました。その理由というのが……
因幡の白兎
八十神の兄弟神は、因幡のヤガミヒメ(八上比売)というキレイなお姫様にプロポーズして、結婚しようと思い、因幡へ旅をしていました。
この時は、ダイコク様は従者としてお供していました。大きな袋を背負って一番後ろを歩いていました。
気多(地名)の御崎を通る時に、皮を剥がれた赤裸のウサギが倒れていました。
先頭を行っていた八十神がそのウサギに言いました。
「ひどいケガだな。その傷を治すには、海水を浴びて、風に当たり、高い山の頂上に寝ていなさい。」
ウサギは八十神が言うとおりにして、ビリビリしみるのを我慢して海水を浴びて、風通しの良い山の上に寝ました。
さんさんと照り付ける日光と風に吹かれて、浴びた海水が乾いていきました。海水が乾くほど塩で傷口がひび割れ、ウサギは血まみれになってしまいました。
回復するどこか、ますます痛みが増し、ウサギは痛み苦しんで泣いていました。
すると、そこへ最後尾を歩いていた、大きな袋を背負って、汗と埃まみれのダイコク様がやってきました。
「どうして、お前は泣いているんだ?ウサギよ。」
「わたしは、もとは沖ノ島にいました。しかし、この国に渡ろうと思いましたが、渡る方法がありませんでした。
そこで海のサメを騙して『わたしとあなたと、どっちの同族が多いか比べてみないか。ここに仲間を集めて、沖ノ島から気多の御崎まで並んでください。その上を、私が飛んで走りながら数えましょう。
こうすれば、私たちとあなた達のどちらが多いかハッキリするでしょう。』と言いました。
そう言うと、騙されたサメが列になって伏せて、わたしはその上を踏んで数えながら渡りました。
そうして、渡り切るところで私は言ったのです。
『お前はわたしに騙されたのだよ!』
そう言い終わるや否や……
列の一番端っこのサメが、わたしを捉えて、衣服を身包み剥いでしまったのです。
それで泣いていると、八十神の兄弟神達が来て
『海水を浴びて、風に当たって伏せていろ!』と教えてくれましたので、その教えのとおりにしていると、全身傷だらけになりました」
と(ウサギは)言いました。
ダイコク様は、ウサギの話を聞いて、あきれつつもそのウサギに傷の治し方を教えてやりました。
「あきれたウサギだ。しかし、ちゃんと罰を受けたのだから、傷の治し方を教えてあげよう。
今すぐに河口に行き、海水と淡水が混じった水で身体を洗いなさい。河口から上がる時に、そこらに生えている蒲黄の種を取ってきて、そのフワフワの種を敷いて寝転がれば、元の肌に必ず治るだろう。」
と言いました。
教えどおりにすると、ウサギの身体は元通りになった。
これが因幡の白菟です。
今もこのウサギのことを「兎神」といいます。
この兎神は、御礼にダイコク様に預言をしました。
「あのキレイなヤガミヒメは、袋を負っていても、あなたと結婚することになるでしょう」と。
この予言の通りに、ヤガミヒメは八十神たちの申し出を断り、
「わたしは、あなた方とは付合えません。あのダイコク様と結婚します。」
と宣言しました。
伯耆の赤猪
ヤガミヒメがダイコク様の許に嫁いだことに八十神の兄弟は嫉妬し、殺してしまおうと相談しました。
そこで、「伯耆国の手間山の麓に狩りに出るからついて来い」と連れ出しました。
「この山には赤い猪が居る。我々が山頂から追って、下へと降ろす。猪が降りてきたら、お前は待ち伏せして捕らえろ。もし待ち伏せして捕まえそこなったら必ずお前を殺す!」
そう言うと、鼻息荒くして八十神たちは山へと入っていきました。しかし、山中で八十神たちがしていたのは、イノシシに似た大きな石に火で焼くことでした。
真っ赤に焼けた大石を転ばして、下で待ち構えているダイコク様に向かって転がし落としました。
八十神たちの思惑通りに、ダイコク様は落ちてきた焼けた石に巻き込まれて死んでしまいました。
このニュースを知った母は泣き悲しんで、急いで高天原に上り、カミムスビ命(神産巣日之命)に「救ってください」と涙ながらに訴えました。
すると、カミムスビ命はキサガイヒメとウムガイヒメを派遣して、ダイコク様の治療・蘇生させました。
その治療方法は、キサガイヒメは赤貝の殻を削り、粉を集め、ウムガイヒメはハマグリの汁で溶いた、乳汁を塗ったところ、ダイコク様は立派な男子となって元気になりました。
二度目の殺害
蘇生したダイコク様を見た兄弟神は、さらに怒りを燃やしました。
適当な理由をつけて、山に連れ込み、大木を切り倒してクサビを打って開いたところに、ダイコク様を誘い入らせました。
裂け目に入った途端、八十神がクサビを引き抜き、ダイコク様は木に挟まって死んでしまった。
八十神に連れられて山に行ったこと知った母が泣きながら探し求めると、瀕死のダイコク様を見つけることが出来ました。
挟まれている木を折って、取り出し、助け出して蘇生させました。
蘇生した所で言いました。
「お前はここに居たら八十神に滅ぼされてしまう。はやく逃げなさい!」
そうして母は、紀国のオオヤビコ神(大屋毘古神)のもとに送りました。
ところが、八十神が探して追ってオオヤビコのもとへやってきました。
弓に矢を添えて構え
「ダイコクを引き渡せ」と求めました。
そこでオオヤビコ神は、ダイコク様を木の股から逃がし
「スサノオ命のいる根の堅州国に行きなさい。きっとその神がよい考えを持っているから」
と教えました。
ここまでの原文
故れ此の大国主神の兄弟、八十神坐しき。然れども皆国は大国主神に避りまつりき。避りまつりし所以は、其の八十神、各稲羽の八上比売を婚はむの心有りて、共に稲羽に行きける時に、大穴牟遅神に袋を負せ、従者と為て率て往きき。
是に気多之前に到りける時に、裸の菟伏せり。爾に八十神、其の菟に謂ひけらく、汝為むは、此の海塩を浴み、風の吹くに当りて、高山の尾上に伏してよと云ふ。故れ其の菟、八十神の教ふる従にして伏しき。
爾に其の塩の乾く随に、其の身の皮悉に風に吹き拆かえし故に、痛苦みて泣き伏せれば、最後に来ませる大穴牟遅神、其の菟を見て、何由も汝泣き伏せると言ひたまふに、菟答言さく、
僕淤岐島に在りて、此の地に度らまく欲りつれども、度らむ因無かりし故に、海の和邇を欺きて言ひけらく、吾と汝と族の多き少きを競べてむ。
故れ汝は、其の族の在りの随に、悉率て来て、此の嶋より気多前まで皆列み伏し度れ、爾ち吾其の上を蹈みて、走りつつ読み度らむ。是に吾が族と熟れか多きといふことを知らむ。如此言ひしかば、
欺かえて列み伏せりし時に、吾其の上を蹈みて読み度り来て、今地に下りむとする時に、吾、汝は我に欺かえつと言ひ竟れば、
即ち最端に伏せる和邇、我を捕へて、悉に我が衣服を剥ぎき。此に因りて泣き患ひしかば、先だちて行でませる八十神の命以て、海塩を浴みて、風に当りて伏せれと誨告へたまひき。故れ教の如為しかば、我が身悉に傷はえつとまをす。
是に大穴牟遅神、其の菟に教告へたまはく、今急く此の水門に往きて、水以て汝が身を洗ひて、即ち其の水門の蒲黄を取りて、敷き散らして、其の上に輾転びてば、汝が身本の膚の如、必ず差えなむものぞ、とおしへたまひき。故れ教の如為しかば、其の身本の如くになりき。此れ稲羽之素菟といふ者なり。
今に菟神となも謂ふ。故れ其の菟、大穴牟遅神に白さく、此の八十神は必ず八上比売を得たまはじ。袋を負ひたまへれども、汝命ぞ獲たまはむとまをしき。
是に八上比売、八十神に答へけらく、吾は汝等の言は聞かじ。大穴牟遅神に嫁はなと言ふ。
故れ爾に八十神怒りて、大穴牟遅神を殺さむと共議りて、伯伎国の手間の山本に至りて云ひけるは、此の山に赤猪在るなり。故れわれども追ひ下りなば、汝待ち取れ。若し待ち取らずば、必ず汝を殺さむと云ひて、猪に似たる大石を火を以て焼きて、転ばし落しき。爾れ追ひ下り取る時に、其の石に焼き著かえて死せたまひき。
爾に其の御祖命、哭き患ひて、天に参上りて、神産巣日之命に請したまふ時に、乃ちキサ貝比売と蛤貝比売とを遣せて、作り活さしめたまふ。爾れキサ貝比売きさげ集めて、蛤貝比売水を承けて、母の乳汁を塗りしかば、麗しき壮夫に成りて出で遊行きき。
是に八十神見て、且欺きて、山に率て入りて、大樹を切り伏せ、茹矢を其の木に打ち立て、其の中に入らしめて、即ち其の氷目矢を打ち離ちて拷ち殺しき。
爾に亦其の御祖命哭きつつ求げば、見得て、即ち其の木を拆きて、取り出で活して、其の子に告りたまはく、汝此間に有らば、遂に八十神に滅さえなむ、と言りたまひて、乃ち木国の大屋毘古神の御所に速がし遣りたまひき。
爾に八十神覓ぎ追ひ臻りて、矢刺す時に、木の俣より漏き逃れて去りたまいひき。御祖命、子に告りたまはく、須佐之男命の坐します根堅州国に参向でてよ。必ず其の大神、議りたまひなむとのりたまひふ。
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