古事記 上巻4

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。

イザナギ、黄泉の国から帰りミソギを行う

イザナミとの最後の別れを告げて、黄泉の国での散々な出来事に疲れたイザナギは「わたしはなんて汚らわしいところに行っていたんだろう。みそぎをして身を清めよう。」

そう思い立つと、筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原あわぎはらという所へ行き、みそぎを行うために持ち物や衣服を脱ぎ捨てると。

投げ捨てた杖から成ったのは、ツキタツフナトノ神(衝立船戸神)です。
投げ捨てた帯から成ったのは、ミチノナガチハノ神(道之長乳歯神)です。
投げ捨てた袋から成ったのは、トキオカシノ神(時置師神)です。
投げ捨てた衣から成ったのは、ワヅラヒノウシノ神(和豆良比能宇斯能神)です。
投げ捨てた袴から成ったのは、チマタノ神(道俣神)です。
投げ捨てた冠から成ったのは、アキグヒノウシノ神(飽咋之宇斯能神)です。
投げ捨てた左の腕輪から成ったのは、オキザカルノ神(奥疎神)です。
次にオキツナギサビコノ神(奥津那芸左毘古神)です。
次にオキツカヒベラノ神(奥津甲斐弁羅神)です。
投げ捨てた右の腕輪から成ったのは、ヘザカルノ神(辺疎神)です。
次にヘツナギサビコノ神(辺津那芸左毘古神)です。
次にヘツカヒベラノ神(辺津甲斐弁羅神)です。

以上のツキタツフナトノ神(衝立船戸神)からヘツカヒベラノ神(辺津甲斐弁羅神)までの12柱は身に着けていた物を脱ぎ捨てて成った神です。

イザナギは川の状態を見て「水面に上の方は流れが速いな。水底の方は流れが遅そうだ」そう言うと、中ごろに潜りました。
すると、ヤソマガツヒの神(八十禍津日神)が成りました。
次にオオマガツヒの神(大禍津日神)が成りました。

この二柱は、黄泉の国へ行ったときにイザナギに付いた穢れから生まれた神です。

その禍々しさを直そうとして成った神は、カムナオビの神(神直毘神)。
次にオオナオビの神(大直毘神)。
次にイヅノメの神(伊豆能売神)。

水の底で身体を洗ったときに生まれた神が、ソコツワタツミの神(底津綿津身神)。次にソコツツノオの命(底筒之男命)。

中ほどで成った神がナカツワタツミの神(中津綿津身神)。次にナカツツノオの命(中筒之男命)。

水の上のほうで身体を洗ったときに生まれた神がウワツワタツミの神(上津綿津身神)。次にウワツツノオの命(上筒之男命)。

この三柱のワタツミの神(綿津見神)は阿曇あずみのむらじなどの祖先神として祭っている神です。つまり阿曇連はワタツミの神(綿津見神)の子、ウツシヒカナサクの命(宇都志日金拆命)の子孫です。

また、ソコツツノオの命(底筒之男命)、ナカツツノオの命(中筒之男命)、ウワツツノオの命(上筒之男命)の三柱は住吉神社に祭られている神様です。

三貴神の誕生に悦ぶ

水中から体を出したイザナギは、今度は顔を洗いました。

まず左の目を洗うとアマテラス大御神(天照大御神)が生まれました。

次に右目を洗って生まれのがツキヨミの命(月読命)。

次に鼻を洗って生まれたのがタケハヤスサノオの命(建速須佐之男命)。

これまでのヤソマガツヒ神からスサノオまでの14柱はイザナギが禊をして生まれた神です。

イザナギは、この三柱の子供たちの誕生にとても喜び、「私は子供を次々に生んだが、最後に生まれた三柱の神は、なんて貴い子なんだ!」と言いました。

美しい珠が装飾されている首飾りをゆらゆと取り揺らしながら、アマテラス大御神に授けて、「あなたは高天原を統治しなさい」と言いました。それで首飾りの玉をミクラタナ神(御倉板挙之神)といいます。

次にツキヨミの命に「あなたは夜の食国を統治しないさい」と言いました。

次にスサノオに「あなたは海原を統治しなさい」と言いました。

ここまでの原文

ここ伊邪那岐大神いざなぎのおおかみりたまわく、は いなしこめしこめきくにいたりてりけり。御身おおみまみそぎな、とのりたまいて、竺紫つくし日向ひむかたちばな小門おど阿波岐原あわぎはら到坐いでまして、みそはらいたまいき。

つる御杖みつえりませるかみみなは、衝立船戸神つきたつふなどのかみつぎつる御帯みおびりませるかみみなは、道之長乳歯神みちのながちはのかみつぎつる御裳みもりませるかみみなは、時置師神ときおかしのかみつぎつる御衣みけしりませるかみみなは、和豆良比能宇斯能神わづらいのうしのかみつぎつる御褌みはかまりませるかみみなは、道俣神ちまたのかみつぎつる御冠みかがぶりりませるかみみなは、飽咋之宇斯能神あきぐいのうしのかみつぎつるひだり御手みて手纏たまきりませるかみみなは、奥疎神おきざかるのかみつぎ奥津那芸佐毘古神おきつなぎさびこのかみつぎ奥津甲斐弁羅神おきつかいべらのかみつぎつるみぎり御手みて手纏たまきりませるかみみなは、辺疎神へざかるのかみつぎ辺津那芸佐毘古神へつなぎさびこのかみつぎ辺津甲斐弁羅神へつかいべらのかみ
 みぎくだり船戸神ふなどのかみより以下も、辺津甲斐弁羅神へつかいべらのかみ以前まで十二神とおあまりふたはしらは、けるものぎうてたまいしにりてりませるかみなり。

是に上瀬かみつせ瀬速せはやし、下瀬しもつせ瀬弱せよわし、とりごちたまいて、はじめて中瀬なかつせりかづきてそそぎたまうときせるかみみなは、八十禍津日神やそまがつひのかみつぎ大禍津日神おおまがつひのかみ二神ふたしらは、きたな繁国しきぐにいたりまししとき汚垢けがれりて、ませるかみなり。

つぎまがなおさんとりませるかみみなは、神直毘神かむなおびのかみつぎ大直毘神おおなおびのかみつぎ伊豆能売神いづのめのかみつぎ水底みなそこそそぎたまうときりませるかみみなは、底津綿津身神そこつわたつみのかみつぎ底筒之男命そこつつのおのみことなかそそぎたまうときりませるかみみなは、中津綿津身神なかつわたつみのかみつぎ中筒之男命なかつつのおのみことみずうえそそぎたまうときりませるかみみなは、上津綿津身神うわつわたつみのかみつぎ上筒之男命うわつつのおのみこと三柱みはしら綿津見神わたつみのかみは、阿曇連等あづみのむらじら祖神おやがみもちいつくかみなり。阿曇連等あづみのむらじらは、綿津見神わたつみのかみみこ宇都志日金拆命うつしひがなさくのみこと子孫すえなり。底筒之男命そこつつのおのみこと中筒之男命なかつつのおのみこと上筒之男命うわつつのおのみこと三柱みはしらかみは、墨江すみのえ三前みまえ大神おおかみなり。

ここひだり御目みめあらいたまいしときりませるかみみなは、天照大御神あまてらすおおみかみつぎみぎり御目みめあらいたまいしときりませるかみみなは、月読命つくよみのみことつぎ御鼻みはなあらいたまいしときりませるかみみなは、建速たけはや須佐之男すさのおのみこと
 みぎくだり八十禍津日神やそまがつひのかみ以下よりはや須佐之男すさのおのみこと以前まで十四とおあまりよはしらかみは、御身みみそそぐたまうにりてりませるかみなり。

とき伊邪那岐命いざなぎのみこといた歓喜よろこばしてりたまわく、あれみこみて、みのはてに、三貴子みはしらのうづのみこたり。とのりたまひて、すなわ御頸珠みくびたまたまもゆらにりゆらかして、天照大御神あまてらすおおみかみたまいてりたまわく、みことは、高天原たかまのはらしらせ、と事依ことよさしてたまいき。御頸珠みくびたま御倉板挙之神みくらたなのかみもうす。つぎ月読命つくよみのみことりたまわく、みことは夜の食国をしらせ、と事依ことよさしたまいき。つぎ建速たけはや須佐之男すさのおのみことりたまわく、みこと海原うなばらしらせ、と事依ことよさしたまいき。

コメント

Copied title and URL