古事記 上巻7

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。

スサノオ、出雲の地へ

地上に降り立ったスサノオは出雲の肥河(ヒノカワ)の上流にある鳥髪(トリカミ)という所でした。

すると河に流れている箸をみて、スサノオは「上流に誰かいるな」と思い、河上に向かって歩き始めました。しばらく行くと、おじいさんとおばあさんが、少女のかたわらで泣いていました。

「おおい、お前らはダレだ?」とスサノオは聞きました。

老人は静かに振り返り答えました。
「わたしらは国津神のオオヤマヅミ神の子で、わたしはアシナヅチ(足名椎)。そして妻はテナヅチ(手名椎)といいます。この娘はクシナダヒメ(櫛名田比売)といいます」

「さっきから、どうして泣いているんだ?」とスサノオが重ねて聞くと

「わたしたちの娘は8人いましたが、高志からやってくるヤマタノオロチに毎年食べられてしまいました。そして、またヤマタノオロチが来る時がきたのです。 それで泣いているのです」

「そのオロチとは、どのような姿形なのか?」

「その目はホオズキのように赤く、体はひとつですが、頭が八つ、尻尾が八つあります。その身体には、コケやヒノキや杉が生えていて、大きさは八つの谷と八つの峰にまで及んでいます。腹は常に血が滲んでいます」
とアシナヅチは答えました。

ヤマタオロチ退治

スサノオがアシナヅチに
「お前の娘をわたしに嫁がしてはどうか」と言いました。

すると
「恐れ多いことに、あなたの御名も知りません」
と答えました。

「わたしはアマテラスの弟です。 今しがた高天原より降りてきた」
と言いました。

アシナヅチとテナヅチは
「そうでしたか。それならば、恐れ多くも、娘を献上しましょう」

スサノオは、スセリヒメを櫛に変えて、自分の結い髪に刺し、アシナヅチとテナヅチにオロチ退治の準備をさせました。
「あなたがたは、何度も醸造した強い酒を造りなさい。 次に垣根を作って、そのなかに8つの門を作り、 その門毎に橋を作って酒樽を置いて、強い酒をなみなみに盛って、オロチが来るのを待っていなさい。」
と指示しました。

アシナヅチとテナヅチは娘を救うために、命じられたとおりに準備しました。準備が整った頃に、ヤマタノオロチがアシナヅチの予想通りにやってきました。

大蛇は辺りを見回すと、すぐに酒に気が付きました。その酒樽ごとに8つの頭を突っ込み、ぐびぐびと音を立てて酒を飲み干し、その場で酔って眠ってしまいました。

この様子を見ていたスサノオは、腰に佩いていた大剣をキラリと抜いて、その蛇を切り刻みました。

するとオロチの血で肥河ひのかわに流れ、河が赤く染まりました。

次々と切り刻んでいる時に、尾を切っていると大剣の刃が欠けました。

「この剣が欠けるとは?」と不思議に思い、剣の先を刺して尾を裂いて見ると、これまでに見たことのない輝きを放つ大刀がありました。

そこで、この不思議な太刀を取り出して、魅力的な立派な太刀だと思い、アマテラスに報告して、献上しました。

これが今の“草薙剣くさなぎのたち”です。

スサノオ、出雲に住む

スサノオの策略によりヤマタノオロチを退治し、一躍英雄になったので、スサノオは宮殿をつくるべき土地を「出雲国」に探し求めました。

出雲国をあちこち巡り、ついに須賀すがの地にたどり着いた時、
「この地に着て、心が清々しい!」
と悦び、須賀の地に宮殿を造りました。

(それでこの土地を「須賀」といいます。)

スサノオが須賀の宮殿を建てている時に、この土地から雲が立ち登りました。
その時、スサノオが歌を歌いました
「八雲立つ 出雲八重垣妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」

その後、アシナヅチを呼んで、
「あなたが、この宮殿の責任者を務めなさい!」
と伝えて任じました。

また、アシナヅチを宮殿の責任者にしたので、
稲田いなだ宮主みやぬし須賀すがヤツミミの神(八耳神)と名づけました。

スサノオがクシナダヒメとの間に生まれた神様の名前は、ヤシマジヌミの神(八島士奴美神)という名です。

また、スサノオがオオヤマヅミの神の娘である、カムオオイチヒメ(神大市比売)を娶って産んだ子は、オオトシ神(大年神)とウカノミタマの神(宇迦之御魂神)です。

オオクニヌシまでの系譜

兄のヤシマジヌミの神(八島士奴美神)は、オオヤマヅミの神(大山津見神)の娘である、コノハナチルヒメ(木花知流比売)を娶って産んだ子が、フハノモヂクヌスヌの神(布波能母遅久奴須奴神)です。

フハノモヂクヌスヌ神(スサノオの孫)は、オカミの神(淤迦美神)の娘である、ヒカワヒメ(日河比売)を娶って生んだ子は、フカフチノミヅヤレハナの神(深淵之水夜礼花神)です。

フカフチノミヅヤレハナ神(スサノオのひ孫)は、アメノツドヘチネの神(天之都度閇知泥神)を娶った生んだ子は、オミヅヌの神(淤美豆奴神)です。

オミヅヌ神(スサノオの玄孫)が、フノヅノの神(布怒豆怒神)の娘である、フテミミの神(布帝耳神)を娶って産んだ子が、アメノフユキヌの神(天之冬衣神)です。

アメノフユキヌ神(スサノオの五世)が、サシクニ大神(刺国大神)の娘であるサシクニワカヒメ(刺国若比売)を娶って生んだ子が、オオクニヌシ神(大国主神)です。

オオクニヌシには別名がありました。
ある名は、オオナムチ神(大穴牟遅神)。
ある名は、アシハラシコオ神(葦原色許男神)。
ある名は、ヤチホコ神(八千矛神)。
ある名は、ウツシクニタマ神(宇都志国玉神)。
合わせて5つの名前がありました。

ここまでの原文

避追やらはえて、出雲国いづものくに肥河ひのかわ上在かみな鳥髪とりかみところくだりましき。おりしも、はしかわよりながくだりき。ここ須佐之男命すさのおのみこと河上かわかみ人有ひとありけりと以為おもほして、尋覓のぼでまししかば、老夫おきな老女おみな二人ふたりりて、童女おとめなかえてくなり。

すなわいましたちたれぞとたまえば、老夫おきな国神くにつかみ大山津見神おおやまつみのかみなり。足名椎あしなづち手名椎てなづちむすめ櫛名田比売くしなだひめもおすと答言もうす。

またいましゆえなにぞとひたまへば、むすめもとより八椎女やおとめりき。ここ高志こし八俣遠呂智やまたおろちなも年毎としごとうなる。

いまときなりがゆえくと答言もうす。すなわち、かたち如何いかさまにかとひたまへば、それ赤加賀智あかがち如して、ひとつにかしらり。

またこけまたすぎひ、なが谿八谷たにやたに峡八尾おやおわたりて、はられば、ことごといつも血爛ちあえただれたりと答言もうす。【ここ赤加賀智あかがちえるは、いま酸漿ほおづきなり。】

速須佐之男命はやすさのおのみこと老夫おきなに、いましむすめならば、あれたてまつらむやとりたまうに、かしこけれど御名みならず。と答白もおせば、天照大御神あまてらすおおみかみ伊呂勢いろせなり。いまあめよりくだしつとこたへたまいき。

ここ足名椎あしなづち手名椎神てなづちのかみ然坐しかまさばかしこし、立奉たてまつらむともおしき。速須佐之男命はやすさのおのみことすなわ童女おとめ湯津爪櫛ゆつつまぐしして、御美豆良みみづらさして、足名椎あしなづち手名椎神てなづちのかみりたまわく、汝等いましたち八塩折之酒やしほおりのさけみ、且垣またかきつくもとほし、かきつのかどつくり、門毎かどごとつの佐受岐さずきい、佐受岐さずき毎に酒船さかぶねきて、船毎ふねごと八塩折酒やしほおりのさけりてちてよ、とのりたまひき。

りたまえるままにして、如此かくすなへてときに、八俣遠呂智やまたおろちまことひしが如来ごときつ。すなわ船毎ふねごとおのもおのもかしら垂入れて、さけみき。ここひて皆伏みなふたり。

すなわ速須佐之男命はやすさのおのみこと御佩みはかせる十拳剣とつかつるぎきて、おろちはふりたまひしかば、肥河ひのかわりてながれき。なかりたまふとき御刀みはかし刃毀はかけき。

すなわあやしとおもほして、御刀みはかし前以さきもちきてそなはししかば、都牟刈之大刀つむがりのたちり。大刀たちらして、あやしきものぞとおもほして、天照大御神あまてらすおおみかみもうげたまひき。草那芸之大刀くさなぎのたちなり。

ここ速須佐之男命はやすさのおのみこと宮造みやつくるべきところ出雲国いづものくにぎたまひき。ここ須賀すがところいたしてりたまはく、あれ此地ここまして、御心みこころすがすがしとのりたまひて、其地そこになもみやつくりてしましける。其地そこをばいま須賀すがとぞふ。

この大神おおかみはじ須賀宮すがのみやつくらししときに、其地そこより雲立くもたのぼりき。御歌みうたよみしたまふ。みうたは、
  「八雲立つ 出雲八重垣妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」
ここ足名椎神あしなづちのかみして、いましみやおびとたれ、と告言りたまひ、且名またな稲田宮主いなだのみやぬし須賀之八耳神すがのやつみみのかみおおせたまひき。

櫛名田比売くしなだひめて、久美度くみどおこして、みませるかみみなを、八島士奴美神やしまじぬみのかみまおす。また大山津見神おおやまつみのかみみむすめみな神大市比売かむおおいちひめみあひてみませるみこは、大年神おおとしのかみつぎ宇迦之御魂神うかのみたまのかみ

みあに八島士奴美神やしまじぬみのかみ大山津見神おおやまつみのかみみむすめみな木花知流比売このはなちるひめみあひてみませるみこ布波能母遅久奴須奴神ふはのもぢくぬすぬのかみ

かみ淤迦美神おかみのかみみむすめみな日河比売ひかわひめみあひてみませるみこ深淵之水夜礼花神ふかふちのみずやれはなのかみかみ天之都度閇知泥神あめのつどへちねのかみみあひてみませるみこ淤美豆奴神おみづぬのかみかみ布怒豆怒神ふぬづのかみみむすめみな布帝耳神ふてみみのかみみあひてみませるみこは、天之冬衣神あめのふゆきぬのかみ

かみ刺国大神さしくにおおかみみむすめみな刺国若比売さしくにわかひめみあひてみませるみこ大国主神おおくにぬしのかみ亦名またのみな大穴牟遅神おおなむぢのかみまおし、亦名またのみな葦原色許男神あしはらしこおのかみまおし、亦名またのみな八千矛神やちほこのかみまおし、亦名またのみな宇都志国玉神うつしくにたまのかみまおす。あわせてみないつつあり。

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