- 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
- 旧字体・古語は現代語になおします。
- 神様は「柱」という数え方にします。
- 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。
国造り開始
ダイコク様が根の国から戻ってくると、八十神たちは再び襲いかかりました。
しかし、スサノオから譲り受けた太刀と弓が大いに威力を発揮し、スサノオの言うとおりに八十神たちを崖に追いやり、川に追い込みまして、政権交代をいたしました。
秩序が回復されたので、国が豊かになる政策を実行しました。
ところで、因幡国のヤガミヒメとは約束したとおりに結婚しました。
正式に夫婦となりましたので、ダイコク様の妻として出雲国へ連れてきたのですが、正妻のスセリヒメにとってはおもしろくありません。
ヤガミヒメは、スセリヒメの嫉妬に恐れて因幡へ帰ることにしました。しかし、子供はダイコク様の許に残すために、木の俣においていくことにしました。
その子の名は、キマタの神(木俣神)。別名はミイの神(御井神)と言います。
越国の姫とのロマンス
ダイコク様は、越国のヌナカワヒメ(沼河比売)と結婚しようと旅に出ました。
越国に到着し、どういう演出でプロポーズをしようか考えながら、お姫様の家へと向かいます。
いざ、お姫様の部屋まで行くと、姫は戸を開けてくれません。
さすがにこの仕打ちにイラっとしたダイコク様は歌を歌いました。
「八千矛神(ダイコク様の別名)は、日本で好ましい妻を娶ることができませんでしたので、ついに遠い遠い越国の賢い女性が居ると聞いて、美しい女性が居ると聞いて、結婚しようと出発し、何度もプロポーズしに通いました。
太刀も解かず、コートも脱がず、少女が寝ている家の戸を揺さぶっていると、山のヌエが鳴きました。野のキジが鳴きました。庭のニワトリが鳴きました。
鳴き声がイライラする!
この泣き声を、あの鳥どもを静かにさせてくれ!天の使いよ!」
するとヌナカワヒメが、締めきった部屋の中から歌を返します。
「八千矛神よ
わたしは、か弱き女ですから、渚の水鳥のように夫を慕っています。
今はわがままな鳥ですが、いずれは私も水鳥のように夫を慕うようになります。
だから、鳥を殺さないでください。」
さらに、続きを歌います。
「山に太陽が沈んだら、夜には出迎えましょう。
朝日のような笑顔であなたが来て、私の白い腕や柔らかな泡雪のような若い胸を、愛撫し、絡み合い、玉のように美しい私の手を枕にして、足を伸ばして寝るのです。
だから、あまり恋焦がれないでください。
ヤチホコ神よ。」
……とヌナカワヒメは歌いました。
その夜、ヌナカワヒメは会わず、翌日の夜、会いました。
ダイコク様、大和へ出張
ダイコク様の正妻であるスセリヒメは、とても嫉妬深い女神でした。
あまりにも束縛の強かったので、息抜きに大和へ出張しようと、旅支度をしました。
出発するときに、片手を馬の鞍にかけ、片足を鐙に入れた時に歌を妻に向けて歌いました。
「黒い衣装をキッチリと着て、沖の水鳥のように首を曲げてて胸元を見て、袖を鳥が羽ばたきするように上げ下げしてみる。これは似合わない。
波が引くように、衣装を後ろに脱ぎ捨て、カワセミのように青い衣装をキッチリと着て、沖の水鳥のように首を曲げてて胸元を見て、袖を鳥が羽ばたきするように上げ下げしてみる。これも似合わない。
波が引くように、衣装を後ろに脱ぎ捨て、畑で育てたタデの藍色で染めた衣装をキッチリと着て、沖の水鳥のように首を曲げてて胸元を見て、袖を鳥が羽ばたきするように上げ下げしてみる。
これはよく似合う!
愛する妻・スセリヒメよ。
私が立ち去って、群れる鳥のように従者が後を追って立ち去ったら、あなたは泣くまいと言っても、山のススキのようにうな垂れて、泣いてしまうだろう。
そのあなたの悲しみは、朝の雨の霧のように立ち込めるだろう。」
するとスセリヒメは大きな盃を持って、夫のそばに寄り歌を返しました。
「八千矛よ! 私の大国主よ!
あなたは男ですから、
島の岬、港ごとに妻が居るんでしょうね。
わたしは女ですから、
あなた以外に男は居ません。
あなた以外に夫は居ません。
綾織の帳のフワフワと垂れている下で
カラムシの寝具の柔らかな下で
タクの寝具のザワザワと鳴る下で
泡雪のような白い胸を、
白い綱のような腕を
愛撫し絡み合い、
わたしの手を枕にして、
足を伸ばしてお休みください。
さぁ、お酒を飲んでください。」
この後、盃を交わして夫婦の契りを交わし、寄り添いながら仲睦まじく鎮座しています。
これは神語りといいます。
大国主神の系譜
大国主神が、宗像大社の奥津宮のタキリヒメ命(多紀理毘売命)を娶って産んだ子は、アジスキタカヒコネ神(阿遅鋤高日子根神)。
次に妹のタカヒメの命(高比売命)。別名はシタテルヒメの命(下光比売命)です。
アジスキタカヒコネ神は、現在ではカモ大神(迦毛大御神=賀茂大神)という。
大国主神がカムヤタテヒメの命(神屋楯比売命)を娶って生んだ子は、コトシロヌシ神(事代主神)。
大国主神がトリミミ神(鳥取神)を娶って生んだ子は、トリナルミ神(鳥鳴海神)です。
このトリナルミ神がヒナテルヌカタビチオイコチニ神(日名照額田毘道男伊許知邇神)を娶って生んだ子は、クニオシトミ神(国忍富神)です。
このクニオシトミ神がアシナダカ神(葦那陀迦神)、別名、ヤガワエヒメ(八河江比売)を娶って産んだ子は、ハヤミカノタケサハヤジヌミ神(速甕之多気佐波夜遅奴美神)です。
このハヤミカノタケサハヤジヌミ神が、サキタマヒメ(前玉比売)を娶った産んだ子がミカヌシヒコ神(甕主日子神)です。
このミカヌシヒコ神がヒナラシヒメ(比那良志毘売)を娶った生んだ子が、タヒリキシマルミ神(多比理岐志麻流美神)です。
このタヒリキシマルミ神がイクタマサキタマヒメ神(活玉前玉比売神)を娶って産んだ子がミロナミ神(美呂浪神)です。
このミロナミ神がアオヌウマヌオシヒメ(青沼馬沼押比売)を娶った生んだ子がヌノオシトミトリナルミ神(布忍富鳥鳴海神)です。
このヌノオシトミトリナルミ神がワカツクシヒメ神(若尽女神)を娶って生んだ子がアメノヒバラオオシナドミ神(天日腹大科度美神)です。
このアメノヒバラオオシナドミ神がトオツマチネ神(遠津待根神)を娶った産んだ子がトオツヤマサキタラシ神(遠津山岬多良斯神)です。
右のヤシマジヌミ神からトオツヤマサキタラシ神までの神々を十七世の神と呼びます。
ここまでの原文
故れ其の大刀・弓を持ちて、其の八十神を追ひ避くる時に、坂の御尾毎に追ひ伏せ、河の瀬毎に追ひ撥ひて、国作り始めたまひき。
故れ其の八上比売は、先の期の如、みとあたはしつ。故れ其の八上比売は率て来ましつれども、其の鏑妻須勢理毘売を畏みて、其の生みませる子をば、木の俣に刺し挟みて返りましき。故れ其の子を名を木俣神と云す。亦名を御井神とも謂す。
此の八千矛神、高志国の沼河比売を婚はむと幸行でましし時、其の沼河比売の家に到りて歌ひたまはく、
「八千矛の 神の命は 八島国 妻枕きかねて 遠遠し 高志の国に 賢し女を 有りと聞かして 麗し女を 有りと聞こして さ婚ひに あり立たし 婚ひに あり通はせ 大刀が緒も いまだ解かずて 襲をも いまだ解かねば 嬢子の 寝すや板戸を 押そぶらひ 我が立たせれば 引づらひ 我が立たせれば 青山に ぬえは鳴き さ野つ鳥 雉はとよむ 庭つ鳥 鶏は鳴く 心痛くも 鳴くなる鳥か この鳥も 打ち止めこせね いしたふや 天馳使 事の 語言も 是をば」
爾に其の沼河比売、未だ戸を開かずて、内より歌ひけらく、
「八千矛の 神の命 ぬえ草の 女にしあれば 我が心 浦渚の鳥ぞ 今こそは 我鳥にあらめ 後は 汝鳥にあらむを 命は な死せたまひそ いしたふや 天馳使 事の 語言も 是をば」
「青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ 朝日の 笑み栄え来て 栲綱の 白き腕 沫雪の 若やる胸を そだたき たたきまながり 真玉手 玉手さし枕き 股長に 寝は寝さむを あやに な恋ひ聞こし 八千矛の 神の命 事の 語言も 是をば」
故れ其の夜は合はずて、明日の夜、御合為たまひき。
又其の神の嫡后須勢理毘売命、甚く嫉妬為たまひき。故れ其の日子遅神わびて、出雲より倭国に上り坐さむとして、束装し立たす時に、片御手は御馬の鞍に繁け、片御足は其の御鐙に蹈み入れて、歌ひたまはく、
ぬばたまの 黒き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも これは適はず 辺つ波 そに脱き棄て そに鳥の 青き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此適はず 辺つ波 そに脱き棄て 山県に 蒔きし あたね舂き 染木が汁に 染め衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此し宜し いとこやの 妹の命 群鳥の 我が群れ往なば 泣かじとは 引け鳥の 我が引け往なば 泣かじとは 汝は言ふとも 山処の 一本薄 項傾し 汝が泣かさまく 朝雨の 霧に立たむぞ 若草の 妻の命 事の 語言も 是をば
爾に其の后、大御酒坏を取らして、立ち依り指挙げて歌ひたまはく、
八千矛の 神の命や 吾が大国主 汝こそは 男に坐せば 打ち廻る 島の埼埼 かき廻る 磯の埼落ちず 若草の 妻持たせらめ 吾はもよ 女にしあれば 汝を除て 男は無し 汝を除て 夫は無し 綾垣の ふはやが下に 苧衾 柔やが下に 栲衾 さやぐが下に 沫雪の 若やる胸を 栲綱の 白き腕 そだたき たたきまながり 真玉手 玉手さし枕き 股長に 寝をし寝せ 豊御酒奉らせ
如此歌ひて、即ち宇伎由比為て、宇那賀けりて、今に至るまで鎮まり坐す。此れを神語と謂ふ。
故れ此の大国主神、胸形の奥津宮に坐す神、多紀理毘売命娶ひて生める子、阿遅鋤高日子根神。次に妹高比売命、亦の名は下光比売命。此の阿遅鋤高日子根神は、今、迦毛大御神と謂す者なり。
此の神、日名照額田毘道男伊許知邇神を娶ひて生みませる子、国忍富神。此の神、葦那陀迦神、亦名は八河江比売を娶ひて生みませる子は、速甕之多気佐波夜遅奴美神。此の神、天之甕主神の女、前玉比売を娶ひて生みませる子、甕主日子神。此の神、淤迦美神の女、比那良志毘売を娶ひて生める子、多比理岐志麻流美神。此の神、比々羅木之其花麻豆美神の女、活玉前玉比売神を娶ひて生みませる子、美呂浪神。此の神、敷山主神の女、青沼馬沼押比売を娶ひて生みませる子、布忍富鳥鳴海神。此の神、若尽女神を娶ひて生みませる子は、天日腹大科度美神。此の神、天狭霧神の女、遠津待根神を娶ひて生みませる子は、遠津山岬多良斯神。
大国主神、亦神屋楯比売命を娶ひて生める子、事代主神。亦八島牟遅能神の女、鳥耳神に娶ひて生みませる子は、鳥鳴海神。
右の件、八島士奴美神より以下、遠津山岬帯神以前を、十七世の神を称す。
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