古事記 上巻10

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。
  • 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。

国造り開始

ダイコク様が根の国から戻ってくると、八十神たち再び襲いかかりました。

しかし、スサノオから譲り受けた太刀と弓が大いに威力を発揮し、スサノオの言うとおりに八十神たちを崖に追いやり、川に追い込みまして、政権交代をいたしました。

秩序が回復されたので、国が豊かになる政策を実行しました。

ところで、因幡国のヤガミヒメとは約束したとおりに結婚しました。

正式に夫婦となりましたので、ダイコク様の妻として出雲国へ連れてきたのですが、正妻のスセリヒメにとってはおもしろくありません。

ヤガミヒメは、スセリヒメの嫉妬に恐れて因幡へ帰ることにしました。しかし、子供はダイコク様の許に残すために、木の俣においていくことにしました。

その子の名は、キマタの神(木俣神)。別名はミイの神(御井神)と言います。

越国の姫とのロマンス

ダイコク様は、越国のヌナカワヒメ(沼河比売)と結婚しようと旅に出ました。

越国に到着し、どういう演出でプロポーズをしようか考えながら、お姫様の家へと向かいます。

いざ、お姫様の部屋まで行くと、姫は戸を開けてくれません。

さすがにこの仕打ちにイラっとしたダイコク様は歌を歌いました。

八千矛神やちほこのかみ(ダイコク様の別名)は、日本で好ましい妻を娶ることができませんでしたので、ついに遠い遠い越国の賢い女性が居ると聞いて、美しい女性が居ると聞いて、結婚しようと出発し、何度もプロポーズしに通いました。

太刀も解かず、コートも脱がず、少女が寝ている家の戸を揺さぶっていると、山のヌエが鳴きました。野のキジが鳴きました。庭のニワトリが鳴きました。

鳴き声がイライラする!
この泣き声を、あの鳥どもを静かにさせてくれ!天の使いよ!」

するとヌナカワヒメが、締めきった部屋の中から歌を返します。

八千矛神やちほこのかみ

わたしは、か弱き女ですから、渚の水鳥のように夫を慕っています。

今はわがままな鳥ですが、いずれは私も水鳥のように夫を慕うようになります。

だから、鳥を殺さないでください。」

さらに、続きを歌います。

「山に太陽が沈んだら、夜には出迎えましょう。

朝日のような笑顔であなたが来て、私の白い腕や柔らかな泡雪のような若い胸を、愛撫し、絡み合い、玉のように美しい私の手を枕にして、足を伸ばして寝るのです。

だから、あまり恋焦がれないでください。

ヤチホコ神よ。」

……とヌナカワヒメは歌いました。

その夜、ヌナカワヒメは会わず、翌日の夜、会いました。

ダイコク様、大和へ出張

ダイコク様の正妻であるスセリヒメは、とても嫉妬深い女神でした。

あまりにも束縛の強かったので、息抜きに大和へ出張しようと、旅支度をしました。
出発するときに、片手を馬のくらにかけ、片足をあぶみに入れた時に歌を妻に向けて歌いました。

「黒い衣装をキッチリと着て、沖の水鳥のように首を曲げてて胸元を見て、袖を鳥が羽ばたきするように上げ下げしてみる。これは似合わない。

波が引くように、衣装を後ろに脱ぎ捨て、カワセミのように青い衣装をキッチリと着て、沖の水鳥のように首を曲げてて胸元を見て、袖を鳥が羽ばたきするように上げ下げしてみる。これも似合わない。

波が引くように、衣装を後ろに脱ぎ捨て、畑で育てたタデの藍色で染めた衣装をキッチリと着て、沖の水鳥のように首を曲げてて胸元を見て、袖を鳥が羽ばたきするように上げ下げしてみる。
これはよく似合う!

愛する妻・スセリヒメよ。
私が立ち去って、群れる鳥のように従者が後を追って立ち去ったら、あなたは泣くまいと言っても、山のススキのようにうな垂れて、泣いてしまうだろう。

そのあなたの悲しみは、朝の雨の霧のように立ち込めるだろう。」

するとスセリヒメは大きな盃を持って、夫のそばに寄り歌を返しました。

「八千矛よ! 私の大国主よ!
あなたは男ですから、
島の岬、港ごとに妻が居るんでしょうね。

わたしは女ですから、
あなた以外に男は居ません。
あなた以外に夫は居ません。

綾織あやおりとばりのフワフワと垂れている下で
カラムシの寝具の柔らかな下で
タクの寝具のザワザワと鳴る下で
泡雪のような白い胸を、
白い綱のような腕を
愛撫し絡み合い、
わたしの手を枕にして、
足を伸ばしてお休みください。
さぁ、お酒を飲んでください。」

この後、盃を交わして夫婦の契りを交わし、寄り添いながら仲睦まじく鎮座しています。

これは神語りといいます。

大国主神の系譜

大国主神が、宗像大社の奥津宮のタキリヒメ命(多紀理毘売命)をめとって産んだ子は、アジスキタカヒコネ神(阿遅鋤高日子根神)。
次に妹のタカヒメの命(高比売命)。別名はシタテルヒメの命(下光比売命)です。

アジスキタカヒコネ神は、現在ではカモ大神(迦毛大御神=賀茂大神)という。

大国主神がカムヤタテヒメの命(神屋楯比売命)を娶って生んだ子は、コトシロヌシ神(事代主神)。

大国主神がトリミミ神(鳥取神)を娶って生んだ子は、トリナルミ神(鳥鳴海神)です。

このトリナルミ神がヒナテルヌカタビチオイコチニ神(日名照額田毘道男伊許知邇神)を娶って生んだ子は、クニオシトミ神(国忍富神)です。

このクニオシトミ神がアシナダカ神(葦那陀迦神)、別名、ヤガワエヒメ(八河江比売)を娶って産んだ子は、ハヤミカノタケサハヤジヌミ神(速甕之多気佐波夜遅奴美神)です。

このハヤミカノタケサハヤジヌミ神が、サキタマヒメ(前玉比売)を娶った産んだ子がミカヌシヒコ神(甕主日子神)です。

このミカヌシヒコ神がヒナラシヒメ(比那良志毘売)を娶った生んだ子が、タヒリキシマルミ神(多比理岐志麻流美神)です。

このタヒリキシマルミ神がイクタマサキタマヒメ神(活玉前玉比売神)を娶って産んだ子がミロナミ神(美呂浪神)です。

このミロナミ神がアオヌウマヌオシヒメ(青沼馬沼押比売)を娶った生んだ子がヌノオシトミトリナルミ神(布忍富鳥鳴海神)です。

このヌノオシトミトリナルミ神がワカツクシヒメ神(若尽女神)を娶って生んだ子がアメノヒバラオオシナドミ神(天日腹大科度美神)です。

このアメノヒバラオオシナドミ神がトオツマチネ神(遠津待根神)を娶った産んだ子がトオツヤマサキタラシ神(遠津山岬多良斯神)です。

右のヤシマジヌミ神からトオツヤマサキタラシ神までの神々を十七世の神と呼びます。

ここまでの原文

大刀たちゆみちて、八十神やそがみくるときに、さか御尾毎みおごとせ、かわ瀬毎せごとはらひて、国作くにつくはじめたまひき。

八上比売やがみひめは、さきちぎりごと、みとあたはしつ。八上比売やがみひめましつれども、鏑妻みむかひめ須勢理毘売すせりひめかしこみて、みませるみこをば、またはさみてかえりましき。みこ木俣神きのまたのかみもおす。亦名またのな御井神みいのかみとももおす。

八千矛神やちほこのかみ高志国こしのくに沼河比売ぬなかわひめよばはむと幸行でまししとき沼河比売ぬなかわひめいえいたりてうたひたまはく、

八千矛やちほこの かみみことは 八島国やしまくに つまきかねて 遠遠とおとおし 高志こしくにに さかを りとかして くわを りとこして さよばひに ありたし よばひに ありかよはせ 大刀たちも いまだかずて おすひをも いまだかねば 嬢子おとめの すや板戸いたどを そぶらひ たせれば ひこづらひ たせれば 青山あおやまに ぬえはき さとり きぎしはとよむ にわとり かけく 心痛うれたくも くなるとりか このとりも めこせね いしたふや 天馳使あまはせづかい ことの 語言かたりごとも をば」

ここ沼河比売ぬなかわひめいまかずて、うちよりうたひけらく、

八千矛やちほこの かみみこと ぬえくさの にしあれば こころ 浦渚うらすとりぞ いまこそは 我鳥ちどりにあらめ のちは 汝鳥などりにあらむを いのちは なせたまひそ いしたふや 天馳使あまはせづかい ことの 語言かたりごとも をば」

青山あおやまに かくらば ぬばたまの でなむ 朝日あさひの さかて 栲綱たくづぬの しろただむき 沫雪あわゆきの わかやるむねを そだたき たたきまながり 真玉手またまで 玉手たまでさしき 股長ももながに さむを あやに なこし 八千矛やちほこの かみみこと ことの 語言かたりごとも をば」

はずて、明日くるひ御合為みあいしたまひき。

またかみ嫡后おおきさき須勢理毘売命すせりひめのみこといた嫉妬為うわなりねたみしたまひき。日子遅神ひこぢのかみわびて、出雲いづもより倭国やまとのくにのぼさむとして、束装よそいたすときに、片御手かたみて御馬みまくらけ、片御足かたみあし御鐙みあぶみれて、うたひたまはく、

ぬばたまの くろ御衣みけしを まつぶさに よそひ おきとり 胸見むねみとき はたたぎも これはふさはず なみ そにて そにどりの あお御衣みけしを まつぶさに よそひ おきとり 胸見むねみとき はたたぎも こもふさはず 辺つなみ そにて 山県やまがたに きし あたねき 染木そめきしるに ころもを まつぶさに よそひ おきとり 胸見むねみとき はたたぎも よろし いとこやの いもみこと 群鳥むらとりの なば かじとは とりの なば かじとは ふとも 山処やまとの 一本薄ひともとすすき 項傾うなかぶし かさまく 朝雨あさあめの さぎりたむぞ 若草わかくさの つまみこと ことの 語言かたりごとも をば

ここきさき大御酒坏おおみさかづきらして、指挙ささげてうたひたまはく、

八千矛やちほこの かみみことや 大国主おおくぬし こそは せば る しま埼埼さきざき かきる いそ埼落さきおちず 若草わかくさの 妻持つまもたせらめ はもよ にしあれば て し て つまし 綾垣あやかきの ふはやがしたに 苧衾むしぶすま にこやがしたに 栲衾たくぶすま さやぐがしたに 沫雪あわゆきの わかやるむねを 栲綱たくづぬの しろただむき そだたき たたきまながり 真玉手またまで 玉手たまでさしき 股長ももながに をしせ 豊御酒とよみけたてまつらせ

如此かくうたひて、すなわ宇伎由比為うきゆいして、宇那賀うながけりて、いまいたるまでしずまりす。れを神語かみごとふ。

大国主神おおくにぬしのかみ胸形むなかた奥津宮おきつみやかみ多紀理毘売命たぎりひめのみことみあひてめるみこ阿遅鋤高日子根神あぢすきたかひこねのかみつぎいも高比売命たかひめのみことまたみな下光比売命したてるひめのみこと阿遅鋤高日子根神あぢすきたかひこねのかみは、いま迦毛大御神かものおおみかみまもかみなり。

かみ日名照額田毘道男伊許知邇神ひなてりぬかたびちおいこちにのかみみあひてみませるみこ国忍富神くにおしとみのかみかみ葦那陀迦神あしなだかのかみ亦名またのみな八河江比売やかわえひめみあひてみませるみこは、速甕之多気佐波夜遅奴美神はやみかのたけさはやぢぬみのかみかみ天之甕主神あめのみかぬしのかみむすめ前玉比売さきたまひめみあひてみませるみこ甕主日子神みかぬしひこのかみかみ淤迦美神おかみのかみむすめ比那良志毘売ひならしびめみあひてめるみこ多比理岐志麻流美神たひりきしまるみのかみかみ比々羅木之其花麻豆美神ひひらぎのそのはなまづみのかみむすめ活玉前玉比売神いくたまさきひめのかみみあひてみませるみこ美呂浪神みろなみのかみかみ敷山主神しきやまぬしのかみむすめ青沼馬沼押比売あおぬまぬおしひめみあひてみませるみこ布忍富鳥鳴海神ぬのしみとみとりなるみのかみかみ若尽女神わかひるめのかみみあひてみませるみこは、天日腹大科度美神あめのひばらおおしなどみのかみかみ天狭霧神あめのさぎりのかみむすめ遠津待根神とおつまちねのかみみあひてみませるみこは、遠津山岬多良斯神とおつやまざきたらしのかみ

大国主神おおくにぬしのかみまた神屋楯比売命かむやたてひめのみことみあひて生めるみこ事代主神ことしろぬしのかみまた八島牟遅能神やしまむぢのかみむすめ鳥耳神とりみみのかみみあひてみませるみこは、鳥鳴海神とりなるみのかみ

みぎくだり八島士奴美神やしまじぬみのかみより以下しも遠津山岬帯神とおつやまざきたらしのかみ以前を、十七世とおあまりななよかみもうす。

コメント

Copied title and URL