古事記 上巻13

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。
  • 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。

第三の使者

アマテラスは言いました。「次は、どの神を派遣したらいい?」。

するとオモイカネと諸神が相談した結果、「天安河の上流の石戸にいる、イツノオハバリ(伊都之尾羽張神)を派遣するべきです。もし、この神が行けないのなら、その子供のタケミカヅチノオ(建御雷之男神)が適任です。しかし…オハバリは天安河を塞き止めて、水を逆流させて道をふさいでいるので、アメノカク(天迦久神)を派遣して、依頼しましょう。」と言いました。

さっそくアメノカク神は、オハバリの許へ行きアマテラスの命を申し伝えると、「誠に光栄なことです。お仕えいたします。しかし、この命には、わたしの子『タケミカズチ神』を派遣するべきです。」と答えました。
そこでタケミカズチが使者として派遣されることになり、万全の為にアメノトリフネ(天鳥船神)を副使として添えて地上に送り出しました。

トリフネとタケミカヅチの二柱は、出雲の稲佐いなさの浜に降り立ちました。そして、タケミカヅチは十拳剣とつかつるぎを抜き、逆さまにして海に突き立て、その剣の上にあぐらをかいて、ダイコク様に問いました。

「わたしはアマテラス・タカミムスビの命により、使いに来た。あなたが神領としている葦原中国(日本のこと)は、我らの御子(=アマテラスの子=オシホミミ)が統治するべき国である。これについて、あなたのお考えをお聞かせ願いたい」


「そのことについては、私には返答できません。わたしの子のコトシロヌシ(八重言代主神)がお答するでしょう。しかしながら、コトシロヌシは鳥を狩ったり、魚釣りに、美保みほの岬に出掛けていて、まだ帰ってきません。」

「ならば…」と、タケミカヅチはトリフネを美保の岬に派遣しました。美保で遊んでいたコトシロヌシを探し出し、出雲に呼び寄せて問うと、父のダイコク様に語って言いました。「かしこまりました。この国は、アマツカミの御子に譲りましょう。」

すると、コトシロヌシはすぐに船を踏んで傾け、天の逆手さかてを打って、船を青柴垣に変えて、そこにもりました。

タケミカヅチがさらに問いました。「今、息子のコトシロヌシが賛成したが、他に話を聞くべき子がいますか?」

「私の子にタケミナカタ(建御名方神)がいます。これ以外には意見を言う子はいません」

タケミナカタが千引の石(=千人が引いてやっと動くような大きな岩)を持ちながら「誰が私の国にこっそりと忍び来て、父とひそひそと話をするのか!私を説得したいのならば力比べをしよう!まず私が先に!」

そう言うと、タケミナカタがタケミカヅチの手を取りました。するとタケミカヅチの手がツララになったかと思うと、剣刃となってしまいました。これには、タケミナカタは恐れをなして引き下がってしまいました。

今度は、タケミカヅチがタケミナカタの手を取ると、若い葦を掴むように、握りつぶして放り投げました。タケミナカタは、あまりにの力の差に逃げ去りました。

タケミカヅチは追いかけました。

信濃国の諏訪の湖に追い詰めて、とどめを刺そうとした時です。タケミナカタが「恐れいりました。どうか殺さないでください。私は、この諏訪の土地からは出ません。わたしの父(ダイコク様のこと)の命令に背きません。コトシロヌシの言葉に背きません。この葦原中国(日本のこと)は、天つ神の御子に命ずるままに献上いたしましょう。」

出雲大社の創建

タケミナカタを負かしたタケミカヅチが、諏訪から出雲に帰ってきて「あなたの子達である、コトシロヌシ・タケミナカタの二柱の神は、天つ神の御子の命に従うと宣誓した。さぁ、あなたのお考えをお聞かせ願いたい。」

「わたしの子達の二柱の神が言ったとおりに、わたしは背きません。この葦原中国は天つ神の命ずるままに献上しましょう。ただし、わたしの住居として、天つ神の御子の神殿のように、地に太い柱を立て、空に高々とそびえる神殿を建てるならば、わたしは遠い幽界に隠れましょう。わたしの子である大勢の神は、コトシロヌシが前に立てば、背くことはないでしょう。」

ダイコク様の言うとおりに、出雲のタギシの浜に立派な神殿を神々が建てました。

そして、ミナト神(水戸神)の孫のクシヤタマ神(櫛八玉神)が料理人となり、ご馳走を献上します。そして、クシヤタマ神はとなって、海底にもぐり、粘土を咥えて出て、それで美しい皿を作りました。また、海草の茎を刈って火を切り出すための台を作り、コモの茎を刈って火を切る杵を作り、火を起こして、言いました。「わたしが起こした火よ!高天原では、カミムスビミの神殿のススが固まって、垂れ下がるまで焼きましょう!底津石根(=地下の石)に届くまで、焚きましょう。長い縄で海人が釣った口の大きな立派なスズキを釣り上げて、載せる台がたわむくらいに沢山盛って、魚料理を献上しましょう!」と、言いました。

タケミカヅチは、安心して高天原に上り、葦原中国を平定した経緯を報告しました。

ここまでの原文

ここ天照大御神あまてらすおおみかみりたまはく、またいづれのかみつかはさばけむ。ここ思金神おもいがねのかみもろもろかみまをしけらく、天安河あめのやすのかわ河上かわかみ天石屋あめのいわやす、伊都之尾羽張神いつのおはばりのかみつかはすべし。またかみにならずば、かみ建御雷之男神たけみかづちのおのかみつかはすべし。また天尾羽張神あめのおはばりのかみは、天安河あめのやすのかわみずさかさまにげて、みちきてれば、他神あだしかみ得行えゆかじ。こと天迦久神あめのかくのかみつかはしてふべし。とまをしき。

ここ天迦久神あめのかくのかみ使つかはして、天尾羽張神あめのおはばりのかみときに、かしこし。つかまつらむ。しかれども、みちには、建御雷神たけみかづちのかみつかはすべし。と答白まをして、すなわ貢進たてまつりき。爾れ天鳥船神あめのとりふねのかみ建御雷神たけみかづちのかみへてつかはしき。

ここて、二神ふたはしらのかみ出雲国いづものくに伊那佐之小濱いなさのおばまくだきて、十掬剣とつかつるぎきて、なみさかさまにてて、つるぎさきあぐて、大国主神おおくにぬしのかみひたまはく、天照大御神あまてらすおおみかみ高木神たかぎのかみみことて、ひに使つかはせり。がうしはける葦原中国あしはらのなかつくには、御子みこしらさむくに言依ことよさしたまへり。こころ奈何いかにぞ。ととひたまふときに、すなわ答白こたへまつらく、得白えまをさじ。八重言代主神やえことしろぬしのかみまをすべきを、鳥遊とりのあそび魚取為すなどりしに、御大之前みほのみさききて、いまかえず。とまをしき。

ここ天鳥船神あめのとりふねのかみつかはして、八重言代主神やえことしろぬしのかみて、たまふ時に、ちち大神おおかみに、かしこし。くには、天神あまつかみ御子みこ立奉たてまつりたまへ。とひて、すなわふねかたむけて、天逆手あめのさかて青柴垣あおしばがきしてかくりましき。

ここ大国主神おおくにぬしのかみひたまはく、今汝いまな事代主神ことしろぬしのかみ如此かくまをしぬ。亦まをすべきりや。ととひたまひき。ここに亦まをしつらく、亦建御名方神たけみなかたのかみあり。れをのぞきてはし。とまをしき。

まをしたまふをりしも建御名方神たけみなかたのかみ千引石ちびきいわ手末たなすえにささげてて、たれくにに来て、しのしのびに如此かく物言ものいふ。からば力競ちからくらべむ。先に御手みてらむ。とふ。

御手みてらしむれば、すなわ立氷たちびし、亦剣刃つるぎばしつ。おそれて退しりぞり。ここ建御名方神たけみなかたのかみらむと、かえしてれば、若葦わかあしるがごと、つかみひしぎてはなちたまへば、すなわにき。

きて、科野国しなぬのくに州羽海すはのうみいたりて、ころさむとしたまひしときに、建御名方神たけみなかたのかみまをしけらく、かしこし。をなころしたまひそ。ところきては他処あだしところかじ。亦ちち大国主神おおくにぬしのかみみことたがはじ。八重事代主神やえことしろぬしのかみことたがはじ。葦原中国あしはらのなかつくに天神あまつかみ御子みこみことまにまたてまつらむ。とまをしたまいき。

さらまたかえり来て、大国主神おおくにぬしのかみひたまはく、ども事代主神ことしろぬしのかみ建御名方神たけみなかたのかみ二神ふたはしらのかみは、天神あまつかみ御子みこみことまにまたがはじとまをしぬ。こころ奈何いかにぞ。とひたまひき。

ここ答白こたへまつらく、ども二神ふたはしらのかみまをせるまにまたがはじ。葦原中国あしはらのなかつくには、みことまにますでたてまつらむ。ただ住所すみかをば、天神あまつかみ御子みこ天津日継あまつひつぎしろしめさむ、登陀流天之御巣とだるあまのみすして、底津石根そこついわね宮柱みやばしらふとしり、高天原たかまのはら氷木ひぎたかしりておさたまはば、百不足ももたらず八十坰手やそくまでかくりてさもらひなむ。亦子等こども百八十神ももやそがみは、すなわ八重事代主神やえことしろぬしのかみかみ御尾前みおさきりてつかまつらば、たがかみあらじ。まをして、【すなわかくりましき。まをしたまひしまにまに】出雲国いづものくに多芸志之小濱たぎしのおばま天之御舎あめのみあらかつくりて、水戸神みなとのかみひこ櫛八玉神くしやたまのかみ膳夫かしはでて、天御饗あめのみあえたてまつりし時に、まをして、櫛八玉神くしやたまのかみりて、わたそこりて、そこ波邇はにでて、天八十毘良迦あめのやそびらかつくりて、海布からりて燧臼ひきりうすつくり、海蓴こもから燧杵ひきりきねつくりて、でてまをしけらく、れるは、高天原たかまのはらには神産巣日御祖神かむむすびのみおやのかみ登陀流天之新巣とだるあめのにいす凝烟すすの、八拳垂やつかたるまでげ、つちした底津石根そこついわねこらして、栲縄之千尋縄たくなわのちひろなわへ、らせる海女あまが、大口之尾翼鱸おおくちのおはたすずきさわさわにげて、打竹さきたけのとをとをに天之真魚咋あめのまなぐいたてまつらむとまをしき。

建御雷神たけみかづちのかみかえ参上まいのぼりて、葦原中国あしはらのなかつくに言向ことむ和平やはしぬるさま復奏まをしたまひき。

コメント

Copied title and URL