古事記 上巻6

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。

スサノオ、勝利宣言後に高天原で暴れる

スサノオが声高らかに言いました。
「わたしの心は清らかで正直だ。だから、か弱くやさしい女の子が生まれたのだ。 そう… つまり、わたしが誓約に勝ったということだ!」

そして、勝利に乗じてアマテラスが営む田んぼの畦を壊し、田に水を引く溝を埋めてしまい、神聖な儀式を行う神殿で排泄をしました。

こうしたスサノオの悪行を注意もせずに、アマテラスはスサノオのことをかばいます。

「あのウンコのように見えるのは、酔っぱらって吐いたゲロです。
そして田んぼの畦を壊したり溝を埋めたのは、土地を新しく広げるためでしょう」

と良い方に言い直しましたが、スサノオの悪行はさらに激しくなっていきました。

ある日、アマテラスは神聖な機織り小屋で神にささげる服を織らせていました。
スサノオは、その小屋の屋根をぶち破って、逆に皮を剥いだ馬を放り込みました。すると機織りをしていた女性が驚いて、女性器を機織りの部品で突いて死んでしまいました。

アマテラス、天の岩戸に閉じこもる

スサノオの悪行は、高天原としては受け入れがたい行為であり、統治者のアマテラスは何かしらの措置をとらなければなりません。しかし、弟の狂気じみた行動が恐ろしくなり、ついには天の岩戸の中に閉じ籠ってしまいました。

すると、高天原は暗闇に包まれ、不気味な雰囲気になりました。葦原中国(地上)も、同じように暗くなり、朝になっても日が昇らない永遠の夜となったのです。

そして、おびただしい邪神の声に満ち、夏の蝿のような気持ち悪い音が響き、数え切れないほどの災いが溢れかえりました。

こうした事態を収拾するために、八百万の神が天安河に集って、タカミムスビの神の子のオモイカネの神(思金神)を中心に対応策を考えさせました。

そうだ、お祭りをしよう!

「そうだ、こんな時にこそお祭りだ!」

すごーく考えこんでいたオモイカネは、みんなで一緒に盛大にお祭りを行うことをひらめきました。

そのお祭りの仕方というのが

まず長鳴鳥(ナガナキドリ)を集めて泣かせました。

次に天安河の上流の天の堅石と、天の金山の鉄を材料に、鍛冶屋のアマツマラ(天津麻羅)と鏡の神のイシコリドメの命(伊斯許理度売命)に鏡を作らせました。

また宝石の神のタマノオヤの命(玉祖命)に勾玉を連ねた装飾品を作らせました。

次にアメノコヤネの命(天児屋命)とフトダマの命(布刀玉命)を呼び、神聖な山に住んでいた鹿の骨を抜き取って、同じく神聖な山の桜の木で占いをさせました。

そして、神聖な山のサカキの木を一本抜いてきて、そのサカキの上に勾玉を連ねた装飾品を、中ごろに八咫鏡(ヤタノカガミ)を、下には白い布と青い布を垂らしました。

その飾ったサカキをフトダマ命が持ち、アメノコヤネ命が祝詞を唱えました。

いざという時ために、アメノタヂカラオの神(天手力男神)が岩戸のそばに隠れて立っています。

アメノウズメの命(天宇受売命)は、ヒカゲカズラをたすきがけにし、マサキカズラを髪に飾り、手には笹の葉を束ねて持って、桶を伏せてその上に立って踏みならしながら踊り始めました。

アメノウズメの熱狂的な踊りをするものですから、胸をはだけ、女性器をあらわにしました。これには、八百万の神もたまらず、どっと笑いがおきました。

光もどる

八百万の神々が大笑いしている声を聞いて、アマテラスは「おや?」と思いました。たまらなく気になって、石屋戸の戸を少しだけ開いて、中から覗いて聞いてみました。

「わたしがいなくなって困っているはずなのに、どうしてウズメは踊り、周りの神々は笑っているの?」と言いました。

するとアメノウズメは「あなたよりも優れた神がいらっしゃったので、嬉しくって踊っているのです」
と答えました。

ウズメが答えている間に、アメノコヤネとフトダマが鏡をアマテラスに指し出して見せると、アマテラスは不思議に思い、よく見ようと岩戸から覗きこみました。

そのときです。戸の陰に隠れていたタヂカラオが、アマテラスの手をつかんで引っぱって出しました。

そして、すぐにフトダマが注連縄をアマテラスの後方に掛けて
「これより中には入ることはできません」と言いました。

アマテラスが出てきたので高天原も地上にも自然と太陽の光が戻り、神々はホットしました。

八百万の神は話し合って、スサノオに沢山の品物を罰として納めさせ、髭を切り、手足の爪を抜いて、高天原から追放してしまった。

スサノオとオオゲツヒメ

高天原での行為を贖い、地上に追放され、くたくたになったスサノオは空腹をに悩まされいました。

「何か食べさせてください」とオオゲツヒメ(大気津比売神)という神に食事を求めました。

疲れはてた姿に同情し、快く受け入れて席に案内しました。

しかし、お腹を空かしたスサノオは、台所で料理のようすを見に行くと、なんとオオゲツヒメは鼻や口やお尻から食べ物を出し、調理していました。

それを見たスサノオは
「汚い食べ物を出しやがって!」と怒って、オオゲツヒメを殺してしまいました。

殺されたオオゲツヒメから生まれたものがありました。
頭からは蚕。
二つの目からは稲。
二つの耳からは粟。
鼻からは小豆、
陰部から麦。
お尻から大豆が産まれました。

カミムスビミオヤの神(神産巣日御祖命)はこれらを取り、種としました。

ここまでの原文

ここはや須佐之男命すさのおのみこと天照大御神あまてらすおおみかみもおしたまわく、こころ清明あかゆえに、めりしみこ手弱女たおやめつ。ここりてもおさば、おのずかあれちぬといて、かちさびに、天照大御神あまてらすおおみかみ営田みつくだ阿離あはなち、溝埋みぞうめ、また大嘗おおにえ聞看きこしめ殿とのくそまりちらしき。

然為しかすれども、天照大御神あまてらすおおみかみはとがめずしてりたまわく、くそすはひてちらすとこそ、那勢之命なせのみこと如此為かくしらつらめ。また阿離あはな溝埋みぞうむるは、ところをあたらしとこそ、那勢之命なせのみこと如此為かくしらつらめ、なおしたまへども、なおしきわざまずてうたてあり。

天照大御神あまてらすおおみかみ忌服屋いみはたやしまして、神御衣かむみそらしめたまうとき服屋はたやむね穿うがちて、天斑馬あめのふちこま逆剥さかはぎにぎて、おとるるときに、天衣織女あめのみそおりめ見驚みおどろきて、陰上ほときてみうせにき。

ここ天照大御神あまてらすおおみかみ見畏みかしこみて、天石屋戸あめのいわやどてて、さしこもりましましき。すなわ高天原たかまのはら皆暗みなくらく、葦原中国あしはらのなかつくにことごとくらし。ここりて常夜往とこよゆく。ここよろずかみおとないは、狭蝿如さばえな皆涌みなわき、よろずわざわいことごとおこりき。

ここ八百万神やおよろづのかみ天安之河原あめのやすのかわら神集かむつどつどいて、高御産巣日神たかみむすびのかみみこ思金神おもいかねのかみおもわしめて、常世とこよ長鳴鳥ながなきどりつどえてかしめて、天安河あめのやすかわ河上かわかみ天堅石あめのかたしはり、天金山あめのかなやまかねりて、鍛人かぬち天津麻羅あまつまらぎて、伊斯許理度売命いしこりどめのみことおおせてかがみつくらしめ、玉祖命たまのやのみことおおせて八尺之勾瓊之五百津之御須麻流之珠やさかのまがたまのいほつのみすまるのたまつくらしめて、天児屋命あめのこやねのみこと布刀玉命ふとたまのみことびて、天香山あめのかぐやま真男鹿まおしかかた内抜うちぬきにきて、天香山あめのかぐやま天波波迦あめのははかりて、占合うらへまかなわしめて、天香山あめのかぐやま五百津真賢木いほつまさかきこじにこじて、上枝ほつえ八尺之勾瓊之五百津之御須麻流之珠やさかのまがたまのいほつのみすまるのたまけ、中枝なかつえ八尺鏡やたかがみけ、下枝しづえ白丹寸手しろにぎて青丹寸手あおにぎてでて、種種くさぐさものは、布刀玉命ふとたまのみこと布刀御幣ふとみてぐらたして、天児屋命あめのこやねのみこと布刀詔刀ふとのりと言祷ことねもおして、天手力男神あめのたぢからおのかみわきかくたして、天宇受売命あめのうずめのみこと天香山あめのかぐやま天之日影あめのひかげ手次たすきけて、天之真拆あめのまさきかづらて、天香山あめのかぐやま小竹葉ささば手草たぐさひて、天之石屋戸あめのいわやど汙気うけせて、みとどろこし、神懸かむかがりて、胸乳むなぢで、裳緒もひも番登ほと忍垂おしたれき。高天原たかまのはらゆすりて、八百万神共やおよろづのかみともわらひき。

ここ天照大御神あまてらすおおみかみあやしと以為おもほして、天之石屋戸あめのいわやどほそめにひらきて、うちよりりたまえるは、こもすにりて、天原あまのはらおのづから闇く、また葦原中国あしはらのなかつくにみなくらけむと以為おもふを、何由以などて天宇受売あめのうずめあそびし、また八百万神やほよろづのかみもろ咲楽あそぶとのりたまひき。すなわ天宇受売あめのうずめみことまさりてとうとかみすがゆえ歓喜咲楽えらぎあそぶともうしき。

如此言かくもうあいだに、天児屋命あめのこやねのみこと布刀玉命ふとたまのみことかがみでて、天照大御神あまてらすおおみかみまつときに、天照大御神あまてらすおおみかみいよよあやしとおもほして、ややよりでてのぞときに、かくてる天手力男神あめのたぢからおのかみ御手みてりていだしまつりき。すなわ布刀玉命ふとたまのみこと尻久米縄しめくりなわ御後方みしりへわたして、れより以内うちになかえりましそと白言もうしき。天照大御神あまてらすおおみかみせるときに、高天原たかまのはら葦原中国あしはらのなかつくにおのづかあかりき。

ここ八百万神共やおよろづのかみともはかりて、速須佐之男命はやすさのおのみこと千位ちくら置戸おきどおわせ、またひげ手足てあしつめとをり、はらわしめて、かむやらいやらいき。

また食物おしもの大気津比売おおげつひめのかみいたまいき。ここ大気津比売おおげつひめ鼻口はなくち及尻またしりより種種くさぐさ味物ためつものでて、種種くさぐさつくそなたてまつときに、速須佐之男命はやすさのおのみことしわざうかがひて、穢汚きたなきもの奉進たてまつると以為おもほして、すなわ大気津比売おおげつひめのかみころしたまいき。

ころさえたまえるかみれるものは、かしらかいこり、二つの稲種いなだねり、二つのみみあわり、はな小豆あづきり、ほとむぎり、しり大豆まめりき。ここ神産巣日御祖命かみむすびのみおやのみこと、これをらしめて、たねしたまいき。

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