古事記 上巻9

古事記
  • 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
  • 旧字体・古語は現代語になおします。
  • 神様は「柱」という数え方にします。
  • 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。

若い二人の一目惚れ

オオヤビコに言われたままに、ダイコク様は根の国のスサノオのもとへとやってきました。

根の国のスサノオの御殿に着きますと、娘のスセリヒメ(須勢理毘売)が出迎えてくれました。スセリヒメは、ダイコク様の姿を一目見た時、互いに目があって、若い二人は一目惚れをし、そのまま結婚の約束をしてしまいました。

スセリヒメは御殿に急ぎ戻り、父のスサノオに「素敵な方がいらっしゃいました」と言いました。

スサノオは御殿を出て見て、「あれは葦原色許男あしはらのしこお(ダイコク様のこと)だ。」と言いうと、ダイコク様を御殿に呼び入れ、蛇がたくさんいる部屋に一晩寝かせました。

突然のことに驚き、戸惑っているとスセリヒメがやってきて「蛇が噛みつこうとしたら、このヒレを三回挙げて打ち振って払ってください」といって、不思議なヒレを渡しました。

教えられたとおりに振ってみると、蛇は静かになりました。

ほっと一安心して眠りにつき、翌朝は無事に蛇の部屋を出ることができました。

次の日は、ムカデと蜂の部屋に入れられました。
しかし、またスセリヒメがムカデと蜂を祓うヒレを授けて、使い方を教えたので、何事もなく部屋から出てきました。

ネズミ、窮地を救う

ある日、スサノオに従って草原にやって参りました。

スサノオは、かぶらを原っぱに撃ち、その矢を取って来いと、ダイコク様に命じました。

命じられるままに、矢を探しに原っぱに入りました。

探しに行った姿を見送ると、スサノオ命は火を放って、焼いてしまいました。

「焦げ臭いな?」と思い、顔を上げると、辺り一面を火に囲まれ、逃げようにも逃げられない……と困っていると、ネズミがオオナムチの元にやってきて「中はホラホラ、外はスブスブ」と教えました。

ダイコク様は、その場をドン!と踏みました。

すると、地面下が空洞になっていて、踏みしめた地面が割れて穴に落ちました。

そのまま穴に隠れている間に野火は、草を焼きつくして消えてしまいました。

そのネズミが、鏑矢を咥えて出て来て、ダイコク様に渡しました。しかし、矢の羽はネズミの子供が食いちぎっていました。

妻のスセリヒメは、焼き死んだと思って葬式の道具を持って、泣きながらやって来ました。

スサノオも「死んだかぁ…」と思って、焼いた野原に出てみると、ダイコク様が鏑矢を持って、スサノオの許に帰り、鏑矢を差し出しました。

スサノオの予祝

困難に打ち勝つ姿を気に入ったスサノオは、ダイコク様を御殿の大広間に招きました。

スサノオは、髪を梳いて頭のシラミを取らせました。

しかし、頭を見るとムカデがいっぱい居ました。

このことを知っていたスセリヒメは、ムクの木の実と赤土を、ダイコク様にそっと渡しました。

渡されたムクの実を食い破り、赤土を口に含んで吐き出しました。

それがスサノオには、ムカデを噛み砕いて吐き出しているように見え「かわいいやつだ」と思い、すかっり安心して寝てしまいました。

うたた寝をしていることに気が付くと、ダイコク様は「これは二度とないチャンスだ!」と思い、スサノオの髪を柱ごとに結び、大きな岩を部屋の入り口の戸に置いて塞ぎました。そして、妻であるスセリヒメの手を取り、スサノオの大刀と弓矢そしてあめ詔琴ぬごとを持って、駆け落ちしました。

あまりにも急ぎ過ぎたために、あめ詔琴ぬごとが木にぶつかり、大地が揺れるような大きな音がしました。

琴の音で目を覚ましたスサノオは、驚いて立ち上がったので、建物ごと引き倒してしまいました。

柱に結ばれた髪をほどいているうちに、二人は遠くへと逃げてしまいました。

スサノオは黄泉比良坂よもつひらさかまで追いかけましたが、遥か遠くのダイコク様を呼んで大声で言いました。

「お前が持ってる、私の大刀と弓矢を使って八十神を坂のすそに追いつめ、または川の瀬に追い払え。

そして、大国主神おおくにぬしのかみとなり、宇都志国玉神うつしくにたまのかみとなって、娘のスセリヒメを正妻として迎えろ。

宇迦うかの山のふもとに太い柱を立てて、立派な宮殿に住めよ。このやろう!」

ここまでの原文

詔命みことのりまにまに、須佐之男命すさのおのみこと御所みもと参到まいいたりませば、みむすめ須勢理毘売すせりびめて、目合まぐはひて、相婚みあひまして、かえりて、みちちに、いとうるわしきかみまいきましつ。ともおしたまひき。

ここ大神おおかみて、葦原色許男あしはらのしこおかみぞとりたまひて、やがれて、へびむろしめたまひき。

ここつま須勢理毘売すせりびめへび比礼ひれひこぢさずけてりたまはく、へび咋はむとせば、比礼ひれたびりてはらひたまへとのりたまひふ。おしえごとしたまひしかば、へびおのづかしずまりしゆえに、やすねてでたまひき。

または、呉公むかではちとのむろれたまひしを、また呉公むかではち比礼ひれさずけて、さき如教ごとおしへたまひしゆえに、やすくてでたまひき。

また鳴鏑なりかぶら大野おおぬなか射入いいれて、らしめたまひふ。りしときに、すなわもちめぐらしつ。ここでむところらざるあいだに、ねずみひけるは、うちはほらほらはすぶすぶ。

如此言かくいゆえに、其処そこみしかば、ちて隠入こもりませるあいだに、ぎぬ。ここねずみ鳴鏑なりかぶらちて、たてまつりき。ねずみ子等こらみなひたりき。

ここの妻須勢理毘売すせりびめは、喪具はふりつものちて、きつつまし、みちち大神おおかみは、すでみうせぬとおもほして、たせば、すなわちてたてまつりしときに、いえりて、八田間やたま大室おおむろれて、みかしらしらみらしめたまひき。すなわみかしられば、呉公むかでおおかり。

ここみめ牟久木むくのき赤土はにとをひこぢさずけたまふ。木実このみやぶり、赤土はにふふみてつばだしたまへば、大神おおかみ呉公むかでやぶりてつば出だすと以為おもほして、みこころしくおもほしてみねましき。

ここ大神おおかみみかみりて、むろ椽毎たりきごとけて、五百引石いほびきのいわむろへて、みめ須勢理毘売すせりびめひて、すなわ大神おおかみ生大刀いくたち生弓矢いくゆみやまた天詔琴あめのぬごとたして、でますときに、天詔琴あめのぬごとれて地動鳴つちとどろきき。

みねませる大神おおかみおどろかして、むろたおしたまひき。しかれどもたりきへるみかみかすあいだに、とおげたまひき。

ここ黄泉比良坂よもつひらさかまででまして、はろばろみさけて、大穴牟遅神おおなむぢのかみばひてりまたはく、いましたる生大刀いくたち生弓矢いくゆみやもちて、いまし庶兄弟あにおとどもをば、さか御尾みおせ、亦河の瀬にはらひて、おれ大国主神おおくにぬしのかみり、また宇都志国玉神うつしくにたまのかみりて、みむすめ須勢理毘売すせりびめ鏑妻むかひめて、宇迦能山うかのやま山本やまもとに、底津石根そこついわね宮柱みやばしらふとしり、高天原たかまのはら氷椽ひぎたかしりてれ。是奴こやつよ。とりたまひき。

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