- 読みやすいように神様の御名はカタカナで表記します。
- 旧字体・古語は現代語になおします。
- 神様は「柱」という数え方にします。
- 大国主大神には五つの名がありますが、全て「ダイコク様」とします。
若い二人の一目惚れ
オオヤビコに言われたままに、ダイコク様は根の国のスサノオのもとへとやってきました。
根の国のスサノオの御殿に着きますと、娘のスセリヒメ(須勢理毘売)が出迎えてくれました。スセリヒメは、ダイコク様の姿を一目見た時、互いに目があって、若い二人は一目惚れをし、そのまま結婚の約束をしてしまいました。
スセリヒメは御殿に急ぎ戻り、父のスサノオに「素敵な方がいらっしゃいました」と言いました。
スサノオは御殿を出て見て、「あれは葦原色許男(ダイコク様のこと)だ。」と言いうと、ダイコク様を御殿に呼び入れ、蛇がたくさんいる部屋に一晩寝かせました。
突然のことに驚き、戸惑っているとスセリヒメがやってきて「蛇が噛みつこうとしたら、このヒレを三回挙げて打ち振って払ってください」といって、不思議なヒレを渡しました。
教えられたとおりに振ってみると、蛇は静かになりました。
ほっと一安心して眠りにつき、翌朝は無事に蛇の部屋を出ることができました。
次の日は、ムカデと蜂の部屋に入れられました。
しかし、またスセリヒメがムカデと蜂を祓うヒレを授けて、使い方を教えたので、何事もなく部屋から出てきました。
ネズミ、窮地を救う
ある日、スサノオに従って草原にやって参りました。
スサノオは、鳴り鏑を原っぱに撃ち、その矢を取って来いと、ダイコク様に命じました。
命じられるままに、矢を探しに原っぱに入りました。
探しに行った姿を見送ると、スサノオ命は火を放って、焼いてしまいました。
「焦げ臭いな?」と思い、顔を上げると、辺り一面を火に囲まれ、逃げようにも逃げられない……と困っていると、ネズミがオオナムチの元にやってきて「中はホラホラ、外はスブスブ」と教えました。
ダイコク様は、その場をドン!と踏みました。
すると、地面下が空洞になっていて、踏みしめた地面が割れて穴に落ちました。
そのまま穴に隠れている間に野火は、草を焼きつくして消えてしまいました。
そのネズミが、鏑矢を咥えて出て来て、ダイコク様に渡しました。しかし、矢の羽はネズミの子供が食いちぎっていました。
妻のスセリヒメは、焼き死んだと思って葬式の道具を持って、泣きながらやって来ました。
スサノオも「死んだかぁ…」と思って、焼いた野原に出てみると、ダイコク様が鏑矢を持って、スサノオの許に帰り、鏑矢を差し出しました。
スサノオの予祝
困難に打ち勝つ姿を気に入ったスサノオは、ダイコク様を御殿の大広間に招きました。
スサノオは、髪を梳いて頭のシラミを取らせました。
しかし、頭を見るとムカデがいっぱい居ました。
このことを知っていたスセリヒメは、ムクの木の実と赤土を、ダイコク様にそっと渡しました。
渡されたムクの実を食い破り、赤土を口に含んで吐き出しました。
それがスサノオには、ムカデを噛み砕いて吐き出しているように見え「かわいいやつだ」と思い、すかっり安心して寝てしまいました。
うたた寝をしていることに気が付くと、ダイコク様は「これは二度とないチャンスだ!」と思い、スサノオの髪を柱ごとに結び、大きな岩を部屋の入り口の戸に置いて塞ぎました。そして、妻であるスセリヒメの手を取り、スサノオの大刀と弓矢そして天の詔琴を持って、駆け落ちしました。
あまりにも急ぎ過ぎたために、天の詔琴が木にぶつかり、大地が揺れるような大きな音がしました。
琴の音で目を覚ましたスサノオは、驚いて立ち上がったので、建物ごと引き倒してしまいました。
柱に結ばれた髪をほどいているうちに、二人は遠くへと逃げてしまいました。
スサノオは黄泉比良坂まで追いかけましたが、遥か遠くのダイコク様を呼んで大声で言いました。
「お前が持ってる、私の大刀と弓矢を使って八十神を坂のすそに追いつめ、または川の瀬に追い払え。
そして、大国主神となり、宇都志国玉神となって、娘のスセリヒメを正妻として迎えろ。
宇迦の山のふもとに太い柱を立てて、立派な宮殿に住めよ。このやろう!」
ここまでの原文
故れ詔命の隨に、須佐之男命の御所に参到りませば、其の女須勢理毘売、出で見て、目合為て、相婚ひまして、還り入りて、其の父に、甚麗しき神来ましつ。と言したまひき。
爾に其の大神出で見て、此は葦原色許男と謂ふ神ぞと告りたまひて、即て喚び入れて、其の蛇の室に寝しめたまひき。
是に其の妻須勢理毘売、蛇の比礼を其の夫に授けて云りたまはく、其の蛇咋はむとせば、此の比礼を三たび挙りて打ち撥ひたまへとのりたまひふ。故れ教の如したまひしかば、蛇自ら静まりし故に、平く寝ねて出でたまひき。
亦来る日の夜は、呉公と蜂との室に入れたまひしを、且呉公蜂の比礼を授けて、先の如教へたまひし故に、平くて出でたまひき。
亦鳴鏑を大野の中に射入れて、其の矢を採らしめたまひふ。故れ其の野に入りし時に、即ち火以て其の野を焼き廻らしつ。是に出でむ所を知らざる間に、鼠来て云ひけるは、内はほらほら外はすぶすぶ。
如此言ふ故に、其処を蹈みしかば、落ちて隠入りませる間に、火は焼け過ぎぬ。爾に其の鼠、其の鳴鏑を咋ひ持ちて、出で来て奉りき。其の矢の羽は其の鼠の子等皆喫ひたりき。
是に其の妻須勢理毘売は、喪具を持ちて、哭きつつ来まし、其の父の大神は、已に死せぬと思ほして、其の野に出で立たせば、爾ち其の矢を持ちて奉りし時に、家に率て入りて、八田間の大室に喚び入れて、其の頭の虱を取らしめたまひき。故れ爾ち其の頭を見れば、呉公多かり。
是に其の妻、牟久木の実と赤土とを其の夫に授けたまふ。故れ其の木実を咋ひ破り、赤土を含みて唾き出だしたまへば、其の大神、呉公を咋ひ破りて唾き出だすと以為して、心に愛しく思ほして寝ましき。
爾に其の大神の髪を握りて、其の室の椽毎に結ひ著けて、五百引石を其の室の戸に取り塞へて、其の妻須勢理毘売を負ひて、即ち其の大神の生大刀、生弓矢、及其の天詔琴を取り持たして、逃げ出でます時に、其の天詔琴樹に払れて地動鳴きき。
故れ其の寝ませる大神、聞き驚かして、其の室を引き仆したまひき。然れども椽に結へる髪を解かす間に、遠く逃げたまひき。
故れ爾に黄泉比良坂まで追ひ至でまして、遥に望けて、大穴牟遅神を呼ばひて謂りまたはく、其の汝が持たる生大刀、生弓矢を以て、汝が庶兄弟どもをば、坂の御尾に追ひ伏せ、亦河の瀬に追ひ撥ひて、おれ大国主神を為り、亦宇都志国玉神と為りて、其の我が女須勢理毘売を鏑妻と為て、宇迦能山の山本に、底津石根に宮柱ふとしり、高天原に氷椽たかしりて居れ。是奴よ。と曰りたまひき。
コメント